★★★★☆ファースト・オーダーの将軍ハックスとともに、惑星パナソスのかつての一大生産地、アラトゥ・ステーションに囚われたファズマたち。ここで生き延びる唯一の方法は、統治者アラトゥに気に入られることだという。ファズマは自身の武才を活かし、謎の戦士との決闘に挑むことになるが……。果たして彼女はこの危機を脱することができるのか?
「スター・ウォーズ ファズマ」下巻。
昨年末に読み終えたまますっかり放置していた下巻の感想です。墜落したブレンドルの艦を目指し不毛の大地を往くファズマらが次に出逢ったの、はアラトゥと呼ばれる砂漠のオアシスを拠点とする武装集団。その支配者であるアラトゥの部下たちに捕縛された一行は退屈と熱狂に憑りつかれた民衆の見世物とされるべく、巨大コロシアムに選手として放り込まれます。
死の惑星パナソスにもやはり生き残りは存在し、サイアの民とはまったく違った土地で異なる価値観を持ち生きている。現実の世界ではごくごく当たり前のことなのに、惑星単位でひとつの社会が形成されていることの多い「SW」ユニバースではこれまた珍しい視点です。同時にそれは、資源も何もない少ない土地縛られ縋って生きてきたファズマやシヴにとってはそれまでの苦難を根幹から否定されたにも等しく、どこまでも残酷でもあります。途中、一族の裏切り者となったファズマ一行を追ってきたケルド率いるサイアの民と戦闘状態に陥りますが、効率も生命も度外視し、ただ掟を守ることに縛られた本末転倒な愚かさも無常感を引き立てます。
そんな過去への執着や後悔などおくびにも出さず、仮面を被り、ただひたすら生き延びるために巨大な敵を倒し、自らの障害となる存在を無慈悲に狩り取っていくファズマの雄々しさ、荒々しさはまさしく生粋の戦士にしてバーサーカー。触れるものすべてを破滅に追いやり、目的のため仲間すら切り捨てる彼女は死の女神と呼ぶに相応しいかもしれません。結局のところ彼女にとって他者とはどこまでも踏み台に過ぎず、肉親であろうが自分を慕ってこようが一切の情を持ち合わせていないのです。
本書を読んだ後だと映画シリーズでさんざ恨みを買っているだろうフィンの身が心配でなりません。次会ったときには確実に殺されるぞ……。
そうした中でヴィーへの尋問によりファズマの真の姿を理解したカーディナルが恩師であるブレンドルのため、忠誠を誓ったファースト・オーダーを守るべく彼女に挑み、圧倒的実力差をもって返り討ちにされたにも関わらず、その死を間際にしてパナソス以来誰にも見せなかった素顔を晒してみせたのは己の正体に辿り着き、正々堂々闘って敗れたカーディナルへのせめてもの敬意であったようにも感じられ、無感情で無感動の冷酷無比なマスクの下にあるほんのわずかに人間らしい部分を見た気がしました。
カーディナルという実直な人柄のキャラクターの生き様を通して、その対極ともいえるファズマの素顔を覗かせつつも額面的にはまったくもってデレさせることなく〆たのはいち小説として非常に完成度が高いです。そのときファズマが何を想い、どうしてそんな行動をとったのかはあくまでも読者の想像に委ねられ、ファズマの孤高性は何ひとつも揺らいでいないのですから。
また、戦場に立って初めてその者の戦士として真価がわかると述べるファズマの言が、カーディナルの託した想いが、この数年後ジャクーの村を襲った際にフィンの脱走という形で表出し、新たな世代の「SW」の幕明けを告げることになるのも来るべき未来を予見させ、大河ドラマの面白さが凝縮されたポイントです。
『EP8』が公開してなお謎に包まれたファースト・オーダーの実態に迫っているのも大きな読みどころです。現状、公式に発表されているタイムラインでは本書と角川文庫刊の『ブラッドライン』が同時期のエピソードとされているのですが、今作でファースト・オーダー幹部にカイロ・レンが名を連ねているのを見るになかなか無理があるんじゃないかなぁと。この辺りの時系列に関してはまだまだ不確定な印象で、今後続三部作の完結を受けて『TCW』時代と同様、大幅な再編と再設定が行われそうです。
それにしてもファースト・オーダー創成メンバーであるブレンドルは本書だけでは典型的な小物らしい役回りであまりカリスマを感じられませんでした。かといってファズマと謀議して父親を殺害したアーミテイジも上昇志向が高いだけで実力が伴わず、『EP8』ではあの体たらくですしFOのしょっぱさがいや増したような。
レイ・スローンがいれば云々との話も出てきたので、この段階で彼女が生きているのか死んでいるのか、今のファースト・オーダーの在り方についてどう思っているのか、ブレンドルが皇帝のヨットを入手した経緯といい諸々の事情を明らかにしてくれる作品を早くも期待したいところです。
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