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300冊の積読本もなんのその、本や映画の感想などをつらつらと述べてみたり。

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會川昇『UN-GO 因果論』

UN-GO 因果論 (ハヤカワ文庫JA)UN-GO 因果論 (ハヤカワ文庫JA)
會川 昇 矢﨑 優子

早川書房 2012-02-23
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★★★☆☆
そうよ、わからない。ブディがなにを願っていたかなんて、わからない。
ミダマだけがたったひとつの真実なのかな。わたしはそうは思わない

“敗戦”後の近未来日本。I国から帰国したばかりの〔探偵〕は新興宗教団体・別天王会での連続不審死事件の捜査協力を依頼された。姿の見えない獣が出現するというその事件は、〔探偵〕が口を閉ざす過去、行動を共にする奇妙な少年・因果と密接な関係があった――。


 テレビアニメ『UN-GO』の前日譚に当たる劇場版のノベライズ。テレビシリーズを全話視聴して劇場版のみ未見だったので読んでみました。
 新十郎がどういった経緯で因果と行動を共にするようになったのか、別天王とはそもそも何者だったのか、そもそも作中で語られる戦争とは何だったのか等々、テレビ版では語られなかった諸々の事象についての答えをすべて知ることができます。また、ノベライズとしての質が非常に高く、日本でよくあるなんちゃってノベライズのスケルトン小説とは大違い。おそらく映画本編でも描き切れなかったであろう部分まで補完して1冊の「物語」に仕上げているところは『スター・ウォーズ』や『スター・トレック』のような洋画ノベライズと比較しても遜色のない出来栄えです。
 これだけ重要なエピソードであれば、映画という形で切り取らずにきちんとテレビ放送の中で消化させるべきだし、そうしなかったのは製作側の落ち度で視聴者に対して失礼極まりない話だとは思うのですが。

 と、いうわけでエンタメとしては良作です。しかしながらこれがミステリとなるとちょっと頂けません。解説ではミステリファンにもオススメ的な旨が述べられていますが、はっきり言ってミステリ読みが満足できるレベルには全然ないです。
 ライトノベル界隈ではしばしば“推理をしない探偵”パターンが見られるのですけど、本作はまさにそれをやっちゃっています。別天王が人外であるために「トリックなんてない」状態になってしまっているのです。
 『UN-GO』放送中は人外の因果やAIの風守が登場する以上、なんでもアリになってしまって謎解きミステリとしてはダメダメだという意見をよく目にしました。しかし、実際はその逆で昨年度本ミス第1位『折れた竜骨』や第4位『虚構推理 鋼人七瀬』の例を曳くまでもなく、ミステリとファンタジーは一般のイメージ以上に相性の良い組み合わせなんです。ファンタジーやSFを題材にした場合、通常の論理では思いつかないような斜め上の発想をミステリ的なサプライズとして仕掛けることができるからです。

 たとえば西尾維新の『刀語 第一話 絶刀・鉋』では真庭蝙蝠が変幻自在・どんな相手にでも正確に化けられるといった忍法を用い、主人公である七花がいかにしてそれを破るのかというハウダニットを見事に成立させています。
 この『因果論』もミステリという枠組みの中で物語を展開するのなら、本来であればそうした作風を目指して、別天王の能力をあらかじめ明かした上で尚且つ不可能状況を組み上げ、どうやって殺したのかを推理させる。或いは、別天王にはどんな能力が備わっているのかを推理させるルールものにするかで勝負するべきなんです。
 三人称・地の文の表現にも注意を払っていないところも気になりました。その一方で、新十郎を最後まで〔探偵〕と表記し続けた点と心憎い演出には拘りを感じさせます。


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プロフィール

はろーすみす

Author:はろーすみす
シリーズものも平気で数年寝かせる積読家。本格ミステリとスター・ウォーズ小説を中心に読み漁り、新刊・話題作はあまり追っていません。

好きなミステリ作家は古野まほろ、はやみねかおる、西尾維新、霧舎巧。
ジャンル外では築山桂と小川一水。
講談社ノベルスをこよなく愛す特ヲタ。

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