2012.03/22 [Thu]
小林雄次『ウルトラマン妹』
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★★★☆☆
ジャンヌはまだ勉強中で、一人前のウルトラマンじゃないの。
だから地球の文化を学ぶための研修に来たんだって。まあ、地球人で言うところの留学みたいなもんだよね
兄想いだった妹・月島あかりが、怪獣に襲われて瀕死の重傷!?……と思ったら、ウルトラマンと一心同体になって大復活。中学2年でいきなりウルトラ戦士となったあかりは、地球侵略をたくらむ凶悪な宇宙人の魔の手から、みんなの地球を守るために奮闘する。しかし、一体化したウルトラマン・ジャンヌの能力にも問題があり、絶対絶命の大ピンチに。そんなとき、救いの手を差しのべてくれたのは、あの宇宙警備隊の隊長の……。
発売前から物議を醸していた円谷プロ公認ライトノベル。著者は特オタにはお馴染み『ULTRASEVEN X』や『牙狼〈GARO〉』でメインライターを務めた小林雄次という気合の入れようです。
女子中学生が光の国のゆとり世代・ジャンヌと同化したことから始まる本作は、ウルトラマンとなってしまったあかりとその兄で主人公の翔太が繰り広げるコメディ篇。物語の端々にライトなウルトラネタを盛り込みつつ(ゾフィー隊長が頼れる!)、兄妹愛を軸にシュールギャグの世界が展開されます。
さわりだけ聞くとライトノベルだから「妹もの」なのかと安直なアイディアに思えますが、実はこれ、『ウルトラマンメビウス』第36話「ミライの妹」を観ていると意外と核心を突いた設定のようにも感じられます。かつて地球を訪れたあるウルトラ戦士が地球人の少年と交わした兄弟の約束――それ以来、光の国では「兄弟」という言葉が特別視されるようになりました。つまり、ジャンヌがあかりと翔太の兄妹愛に感化され、彼らを守るためなら光の国を敵に回しても構わないとさえ言ってのける気持ちは至極当然で、それだけで相当な説得力を持っているのです。
著者が意図してやったことかどうかはさておいて、ライトノベルでウルトラマンを扱うにあたって「兄妹愛」をテーマに掲げたのは素晴らしい選択だった、とウルトラファンとしては称賛したいです。
ところで「ウルトラマン」というシリーズ自体がそもそも懐の広い作品で、アニメだけ見ても『ザ・ウルトラマン』のような正統派から『ウルトラニャン』、『ウルトラマンキッズ 母をたずねて3000万光年』といったものまで、様々な作風のものが以前から作られてきました。なのでこの『ウルトラマン妹』も決してウルトラシリーズの世界観から逸脱するようなことはなく、きちんとウルトラワールドの1本として成立しています。
たとえば本作であかりと同化するジャンヌは宇宙警備隊の訓練生見習いという立場ですが、似たようなキャラクターでは既にウルトラマンボーイといった前例があるので違和感はないし、マンガ的なドジっ娘属性もウルトラマンゼロの破天荒さを見ているからすんなりと受け入れられる。さらにいえば『ウルトラ銀河伝説』でいわゆるウルトラ一般人たちが登場しているっため、その延長線上にあるひとりの女性ウルトラマンだと読者が捉える下地もできている。
そういった意味ではジャンヌとあかり、翔太のやりとりする場面は昨今のウルトラシリーズの流れがあってこそ活きてくるものなのかもしれません。今週末公開の映画『ウルトラマンサーガ』におけるゼロとタイガの関係のように、これからの「ウルトラマン」は人間とウルトラマンのバディものがスタンダードになってくるのかもしれません。
ただ、まぁ読んでいてこの作品が「ウルトラマン」である必要性をあまり感じなかったのも確かで、そこは残念な部分でした。学校に遅刻しそうになって→変身といったヒーローの力の無駄遣い的な表現は、それこそ「ウルトラ」に限らず既存の作品で使い古されているといっても良いくらいのネタで、いまさら感が拭えない。怪獣を呼び寄せていた元凶にしても特撮ファンならばまず間違いなく『仮面ライダー龍騎』を想起するハズです。
そのあたりの都合もあり、「萌え×ウルトラマン」の未知なる領域にチャレンジした小説でありながら、独自性を打ち立てられなかった残念さは拭えません。
同じウルトラ小説だったら、内容的にも小ネタ的にも朱川湊人『ウルトラマンメビウス アンデレスホリゾント』に軍配かなぁ。
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