2012.03/20 [Tue]
北夏輝『恋都の狐さん』
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★★☆☆☆
これは自分のアイデンティティなのだ。もはや顔の一部であると言っても過言ではない。
君は自分に顔を取れと言うのか?
豆を手にすれば恋愛成就の噂がある、東大寺二月堂での節分の豆まき。奈良の女子大に通う「私」は、“20年間彼氏なし”生活からの脱却を願って、その豆まきに参加した。大混乱のなか、豆や鈴を手にするが、鈴を落としてしまう。拾ったのは、狐のお面を被った着流し姿の奇妙な青年。それが「狐さん」との生涯忘れえない、出逢いだった――。
第46回メフィスト賞受賞作。
20年間彼氏なしの女子大生がふとしたことから出逢った狐面の男に恋をする。奈良の観光スポットや行事を作中に取り入れ、世界観を作りながら語られる物語は“掟破り”のラストに着地する。語り口はポップで読んでいて楽しく、宣伝文句となっている“掟破り”も恋愛小説における答えのとしてはアリでしょう。
しかし通して読むと恋に恋する乙女が勝手に恋をして、勝手に失恋しただけにも見えてしまいます。やりたいことはわかるし、着地させたい場所、表現したいものもわかる。文章自体もデビュー作とは思えないほどにこなれている。ただ、構成に難が目立つ作品でした。
第四章で終盤へ向けての鍵となる出来事についても、それ以前の物語で充分な布石を打ってきていないために、かなり唐突に終わらせに掛かってきたように感じ、悪い言い方をすれば超展開の一歩手前。確かメフィスト賞座談会では、ラストに至るまでの過程に問題があり、その点を修正して受賞と相成ったように書かれていたような気がするのですが、本当に編集が手を入れさせたのかと疑問視したくなる不自然さです。
何もミステリのような膝を打つ伏線を張れとはいわないけれど、終わりに向けた道筋を立てずに、ただイベントだけを無造作に突っ込むのは考えている以上に違和感があります。
ちょっと変わったキャラクターたちが掛け合う古都を舞台にした不思議系恋愛小説というとことでどうしても森見・万城目系の流れが見え隠れすること、表紙にカスヤナガトを使ってのソフトカバーで刊行した明らかに売れ線狙いなところにも首を傾げざるを得ません。
別に売れ筋路線が悪いというわけではないのですが、それを“一作家一ジャンル”とさえ称されるメフィスト賞でやってしまったことに不安感があるわけで。私は冗談抜きで、メフィスト賞はエンタメ小説界を牽引していく作家を輩出する賞だと信じているので、流行に乗っかるのではなくここから流行を生んでいくような作品、どんなに罵倒されようがそれ1作でシーンにとって無視できないような影響を与える作品を出すべきだと思ってます。
要するに本作は、従来までのメフィスト賞の方針とまったく真逆の方向性にある小説なのです。そしてこのような作風の小説がメフィスト賞を受賞した事実は、メフィスト賞自体の性質が大きく変わってきていることを意味しているのではないかと心配になります。
これについて文三はどう考えているのか、いち講談社ノベルスファンとしては是非ともその真意を問い質したい。そういった意味でもかなり“掟破り”な作品であることは間違いないです。
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