2012.03/16 [Fri]
全民煕『ルーンの子供たち 冬の剣(7)』
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★★★☆☆
そんな調子で望みを抑え続け、最後には望むものをすべて失っても、
それでもわしの前で自分が『何も望むことなき存在』でないと言うことができるのか。
人は望みを失うことができないから、そしていつかは死ぬ運命だから、
貝のように心を閉ざしたまま生きることはできぬのだ。
懐かしの地“大陸”へ戻ったボリスは、運命に導かれるかのように、忘れられた伝説の魔法王国「カナポリ」に足を踏み入れる。その地でボリスは、己の命の意味に気づき始める――。伝説の剣ウインタラーとともに戦う過酷な旅に、ついに終止符が打たれる。
「ルーンの子供たち 冬の剣」最終作。
ノベルス版「冬の剣」はこれにて最終巻になるわけですが、うーん、これは……。消化すべき事項はすべてこなしているし、着地点としてもそれなりに悪くない。なのに、盛り上がるべくして打たれた布石を全力で流してしまったような、妙な肩すかし感があります。
追っ手のくだりやイェーフネンの怪物化、ジンネマン家の因縁、ウインタラーの力とここまで積み上げられてきた数々の要素をあまりに軽く処理しすぎているような気がするのです。ヘクトルの使い方も確かに粋ではるのですが、私としてはやはり戦闘での助太刀を期待していたんですよね。その点がとにかく残念です。
ナヤトレイにルシアンといった過去に意味ありげに登場した人々がボリスに道を示していくのは最終巻らしい展開。結局、ナヤトレイの目的が何だったのかなど、明かされない点も多々ありますが。“選ばなかった道”を辿ることでボリスが急速に人間性を取り戻していく過程、同年代ながらも精神的にはどうにも幼いルシアンとの絡みによって少なからず影響を受けて変わっていく様子は、ようやくボリスが救われ、本当の自分になれたといった感じで、ルシアンとの雪合戦は個人的にイソレットとの手信号を押さえての本巻のベストシーンに挙げたいです。同じ年頃の子供と普通の笑顔で楽しめるところに至るまでに7巻も費やしたのですから。
長かった冬を乗り越えて、ボリスの物語がここから始まる。大変、爽やかなラストでした。
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