2012.03/09 [Fri]
市井豊『聴き屋の芸術学部祭』
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★★★★☆
俺たちの前に立ちふさがっているのは、いったいここで何が起こったのか、という謎なんだよ
生まれついての聴き屋体質の大学生・柏木君が遭遇した四つの難事件。芸術学部祭の最中に作動したスプリンクラーと黒焦げ死体の謎を軽快かつロジカルに描いた表題作をはじめ、結末が欠けた戯曲の謎の解明を演劇部の主演女優から柏木君が強要される「からくりツィスカの余命」、模型部唯一の女子部員渾身の大作を破壊した犯人を不特定多数から絞り込んでゆく「濡れ衣トワイライト」、そして深夜の温泉旅館で二人組の泥棒とともに“いったいここで何が起こったか”を推理する「泥棒たちの挽歌」を収録。
「聴き屋」シリーズ 第1作。
市井豊のデビュー作で全4篇からなる連作短編集です。内容の方は、昨今流行のちょっと変わった登場人物が様々な謎を解き明かしていくコミカルタッチのミステリで、ゲストを含めて毎話毎話に出てくるキャラの立ち具合が半端ないです。読み終えた後で振り返ってみれば、キャラクターの中で最も印象が薄いのが主人公だったというくらいに強烈でした。
そんなわけで軽妙な会話とライトなノリに釣られてさらりと読めてしまうのですが、その反面、謎解きはかなりがっしりとした骨太本格になっていて、こと読み応えに関していえば短編集ながら長編4本ぶんに相当するくらいの満足感が得られます。
特に面白かったのが第4話「泥棒たちの挽歌」。この短編では与えられた情報から被害者が命を落とした状況を導き出すという一風変わった趣向が凝らされており、誰が殺したのかでも、どうやって殺したのかでもなく、どんな事件があったのかを推理するという、普通のミステリではなかなかお目に掛かれない行為をやってのけます。そしてこれが単なる試みで終わらずに、思った以上に上手く嵌まっているから驚きです。伏線が伏線として十二分に張られているので、きちんと正解まで辿り着ける。しかもオチがまた、なんとも微妙な笑いを誘う代物で。
時代を経るにつれて本格ミステリは閉塞的になっていくどころか、どんどん新しい見せ方を示してくる。こういった短編を最後に持ってきたあたり、著者のチャレンジ精神を感じられます。
あとがきによると本作はシリーズもので続刊も書かれるようなので、期待して待ちましょう。
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