2012.03/02 [Fri]
築山桂『浪華の翔風』
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★★★☆☆
さらに厄介な国? それはいったい――
ときは文政。大塩平八郎、蜂起前――。若き大坂城代、教孝に拾われ、両親の仇討ちを悲願に城付きの“影”となった少女あや。ある医者殺しの黒幕を追ううちに十年前父母を罠に陥れた陰謀とこの殺人事件とを結ぶ、奇妙な接点に気がついて……。
昨年5月にポプラ文庫ピュアフルから復刊された築山桂のデビュー作です。『浪花の華』で初めて築山桂という作家を知った当時、どうあっても読むことができなかったのが本作で、仁木悦子の「仁木兄妹」シリーズといい、本書といい、ポプラ文庫ピュアフルは本当に良い仕事をしてくれます。
本作『浪華の翔風』は時系列的には『禁書売り』の「緒方洪庵 浪華の事件帳」から1年後、その前日譚となる「左近 浪華の事件帳」からは3年後の物語。『北前船始末』で章が大坂を発った後の左近殿の姿も描かれています。
しかしながら、主役を務めるのはあやと弓月王です。胸の奥に恋心を秘めつつ健気に頑張るあやのキャラクターは築山桂らしさがよく出ているし、赤穂屋の粋な計らい、他作品ではあまり目にすることのない弓月王のお節介焼きな部分も垣間見ることができて、ファンとしては大変満足な一作でした。
どこにでも転がっていそうなとある殺しが、やがて国を揺るがすような秘密に繋がっていくといったスケールの拡げ方はわりと目にする構図ですが、この作品ではさらにその先に世界の国々が日本を飼い慣らし、骨抜きにしてしまうという巨大な意図まで窺わせているところがポイントです。つまるところ、医者殺しの事件を通して文政期の日本とそれを取り巻く世界情勢、即ち来るべき徳川の世の終焉へと向かう流れを控えた時代そのものを描いてしまっているんですね。
このミクロ←→マクロの見せ方が相当に巧く、読み終えた後には歴史の中にわが身を置いたような充足感を得られます。
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