2012.02/25 [Sat]
彩坂美月『未成年儀式』
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★★★☆☆
『白い家』には永遠があるのだといつか彼女が云った。
あの夏の日――。夏休み初日でほとんどの寮生が帰省し、光陵学院の女子寮に残ったのは小説家を志望する渡辺七瀬ほか物好き五人の少女たちだった。午後に起こった突然の大地震。そこへ双子の姉妹がとんでもない事件を目撃したと駆け込んでくる。地震の影響で外部との連絡が完全に断たれてしまっている極限状態のなかで、さらなる危機が七人を追いつめる。その先で少女たちが見たものとは――。
第7回富士見ヤングミステリー大賞準入選作。
『夏の王国で目覚めない』で第12回本格ミステリ大賞候補にもノミネートされた彩坂美月のデビュー作です。
富士見ヤングミステリー大賞というとライトノベルの新人賞なのですが、本作にはラノベっぽさは殆ど見られません。まぁライトノベル界隈ではミステリは極限に売れずに爆死していますからね。それが地の文を読まないラノベ読者の弊害によるものなのか、既存の探偵小説で充分キャラ立ちしているからなのかはわかりませんが、本書はライトノベル新人賞への応募作にも関わらず、挿絵イラスト一切なしのソフトカバーで刊行されています。
大きな災害に見舞われて、閉鎖空間に閉じ込められた登場人物たちが建物内に紛れ込んだ敵に狙われるといったフォーマットは、ミステリよりも海外のパニック映画に近いものを感じます。アクシデントの規模の割には外部の状況をまったく映さない手法は、低予算のB級映画ではよく見られるんですよね。
そんなシチュエーションで孤立した寮からの脱出劇と犯罪現場を見られたために口封じを画策する教師の襲撃があり、さらにはそれぞれのキャラクターが抱える悩みだったり、寮で噂される幽霊騒ぎの真相や隠された意図が明かされたりと、全体を俯瞰してみるとかなりのごった煮状態。終盤の謎解きシーンも唐突に始まった印象が拭えず、作品としてはまとまりに欠けます。
しかしながら、個々の要素に目を向ければそう悪くもありません。たまたま居合わせた彼女たちが障害を乗り越える中で本音で語り、互いの弱い部分を見せ合って、乗り越える青春群像劇。多くの伏線を拾って真相に繋げるミステリの側面。リリカルな文章と夏の情景も爽やかで良かったです。
本作は学生時代に書いた小説を発掘して応募したものだそうですが、この時点で既に彩坂美月の作風が出来上がっていたのだなぁ、と。『夏の王国で目覚めない』でキーとなった三島加深の名前が登場したり、後の作品とのリンクも楽しめます。
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