2012.02/24 [Fri]
天祢涼『葬式組曲』
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★★★☆☆
こんないたいけな子どもが、車に轢かれて死んでしまったんです。
それだけでもかわいそうなのに、どうして直葬にされないといけないんですか。
せめてちゃんと葬式をあげてやりたい。そう思うことの、なにがいけないんですか。
葬式の規制された国で、若き社長に率いられた北条葬儀社。遺族のさまざまな要求、ときには無理難題に右往左往しつつも、着実に地歩を固めてゆく。葬儀社の面々は、遺族に向き合い、故人が残していった「謎」を解き明かし、無事に式を執り行ってゆくのだが……。
「葬式は無駄」との考えから、殆どの地域で葬式行為が廃止され、死者を速やかに火葬で弔う「直葬」が当たり前となった日本。全国で唯一、葬式の風習が残されたS県のとある葬儀社を舞台にした連作短編集です。
全部で5篇の短編から成り立っている本作は、章ごとに語り手が変わり、ときには喪主の、またあるときは斎場の職員の立場から、それぞれに葬式という死者を送る儀式に意味を見出していきます。
基本的には日常の謎モノのフォーマットを採りながらも、死体消失トリックのようないかにもミステリらしい謎まで手広く扱っているのは葬式をテーマにした作品ならではです。
亡くなった人と残された人、弔われる側と弔う側がいるからには、そこにドラマが生まれるわけで。どの事件もそれぞれの語り部の心に何かしら変化を与えるきっかけとなり、葬式にまつわるちょっと良い話的な体で物語は進んでいくのですが、最終章でそれが思いっ切りひっくり返されます。いやぁ、悪趣味だ。
こういった、すべてを台無しにしてしまうような裏切り方(褒め言葉)ができるのはミステリだけですよね。伏線の仕込み方もかなり大胆不敵です。
真相提示に際する犯人陥落の決め手を解決編まで伏せて書くのはいつもどおりで、これがないと天祢っちの作品はもっと楽しめるんだけどな。まぁ、存在をきちんと匂わせている時点で後出しにはならないので、そこらへんは個人の好みの問題だったりするのですが。
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