2012.02/21 [Tue]
西尾維新『きみとぼくが壊した世界』
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★★★☆☆
早く早く様刻くん! すごいよ! この階段がきっと本当に十七段なんだよ!
うわ、数えなきゃ! ホームズ先生に注意力がないと叱られてしまう!
奇妙な相談を受け、シャーロック・ホームズが愛した街・ロンドンへと誘われた病院坂黒猫と櫃内様刻。次々と巻き起こる事件の謎解き合戦が始まった! これぞ世界に囲われた「きみとぼく」のための本格ミステリ。
「きみとぼく」本格ミステリ 第3作。
前作『不気味で素朴な囲われた世界』読了から早1年弱、ようやく続きを読みました。
今回は主役を第1作の様刻&黒猫コンビに戻して、ロンドン旅行の最中に巻き込まれた事件の数々を解き明かす連作短編の体をとっています。
思うに、本シリーズは良い意味でミステリ初心者に向けて書かれた作品ではないでしょうか。たとえば前作では登場人物のひとりがミステリ読みにはおよそ考えもつかない行動を起こしていることを仕掛けとして組み込んでいるし、今作でもまた同様です。
というのもこの小説では、各章の終わりにそれぞれの事件に対してわざと緩い推理を行って“解答”を明示し、次の章の冒頭でその“解答”の欠陥部分を指摘して棄却する行為を繰り返します。本書が特殊な構造になっているのは勿論“箱庭”的世界の表現でもあるのですけど、この形態を選んだ最大の理由はそこにあるように感じました。
ミステリは「一瞬でも納得させれば作者の勝ち」であり、仮に推理そのものに穴があっても読者に「それだ!」と思わせることができれば何ら問題ない。逆にいえば、「それだ!」と思わせた推理が不完全だとわかった際、読者は自分の不覚さにやられた感を味わうことになります。
ここで試みられているのはつまりはそういうことで、要するに本作は、「解決編に納得してはいけないミステリ短編集」というかなり実験的な作品なのです。
ただし、ある程度のレベルまで本格ミステリを読み込んでいる人にとっては、提示される“真相”にムリがあることにかなりの確率で勘付いてしまうのが弱点で、その面でもやはりライトノベルの延長線上で西尾維新を読んでいるミステリ初心者が想定読者層なのでしょう。
ベイカー街ではっちゃけちゃう黒猫さんは可愛かった。
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