2012.02/16 [Thu]
エラリー・クイーン『ローマ帽子の謎』
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★★★☆☆
では、謹んで読者の注意をうながさせていただくこと
新作劇“ピストル騒動”上演中のローマ劇場の客席で、弁護士のフィールド氏が毒殺された。現場から被害者のシルクハットが消えていたことを手がかりに、ニューヨーク市警きっての腕ききリチャード警視と、推理小説作家エラリーのクイーン父子が難事件に挑む!
「国名シリーズ」第1作。
エラリー・クイーンのデビュー作にしてクイーン親子が活躍するエラリー・クイーンものの記念すべき1作目です。
私はミステリ好きといっても古典は殆ど読んだことがないし、日本の作家でもいわゆる“読んでおくべき基本の作品”は大抵スルーしています。後者には特に理由がなくて、とりあえず面白そうなものを選んで読んでいるからなのですが、前者は訳が古くさくて読む気がしないというのが、その最大の理由です。特に創元推理文庫のクラシック・ミステリのあの活版印刷風味な字面は、見ているだけで拒否反応が出てしまう。しかし、昨今の新訳ブームに乗って「国名シリーズ」が新訳刊行されるということで、それなら良い機会だから読んでみましょうと今回買ってみたのでした。ちなみにクイーンはロス名義の『Xの悲劇』だけ過去に読んだことがあります。
物語のあらましは簡単で、劇場の客席で殺されたモンティ・フィールド氏と消えたシルックハットの謎をクイーン親子が追うというもの。
――が、これがめちゃくちゃたるいのです。冒頭で殺人事件が発生し、それからただひたすら事件調査が続く。いくら読み進めても物語的に進展している感がまったくなく、起伏もないから中だるみが半端ない。捜査過程だけで400ページも引っ張られるとさすがにきつい。正直なところ読んでいる最中、まだ終わらないのかと何度も思ってしまったくらいです。
なんでもこの『ローマ帽子の謎』はミステリ史上初めて“読者への挑戦状”を挿入した作品だそうで。シルクハットが消えてしまった事実からロジックを展開し、消去方法で犯人候補を次々に絞っていく過程は、伏線の張りようも含めて気持ちの良いものがある一方で、主に犯人のアリバイに関して情報開示に公平さを欠いている箇所も見られます。一応、別のルートからアプローチすることができるとはいえ、謎解きを行う上での重要な前提条件となり得る部分に、解決編になるまでまったく言及されていないのはいまいち納得し難いです。
「国名シリーズ」を最初から制覇したいというマニア以外はわざわざ手に取る必要もないし、歴史的な価値を勘案しないそれ以外の人には薦められません。単純にミステリとしてならば☆×3、読みものとしては☆×2が妥当な評価ではないでしょうか。
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