2012.02/10 [Fri]
水生大海『夢玄館へようこそ』
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★★★☆☆
気づいちゃったから。伯母さんがどうしてここを作ったか
古いアパートをリノベーションして、ショッピングモールとなった『夢玄館』。入院中の伯母に代わり、仕方なく管理人を務めるわたし。各ショップのオーナーたちが起こす“事件”に辟易するが、毎日をともに過ごすうちに“隠されていた事”が見えてくる。今まで見えなかった事が見えたとき、わたしの中で……。
嫌々ながら代理で夢玄館の管理人をすることになった主人公が、いくつかの事件を通して変わり者の店主たちと関わり合っていく中で本当に大切なものを見出していく――。
アパートを舞台にした青春模索モノは、既に一ジャンルを形成しているといっても良いくらいに類作が多いパターンで、本作を見てみるとキャラクターの配置や造形、大枠の物語における道すじと着地点は基本的にどれも定型どおりといった印象です。似たような小説がいくつもある中で強いてこの作品を選ぶ必要性があるのかと言われると、恐らくは「ない」と答えざるを得ないでしょう。王道が王道で終わってしまい、一線を画すところまでには残念ながら至っていませんでした。
本作がミステリとして特徴的なのは、あらすじにもあるとおり最初から謎が提示されているわけではなく、あくまでも自然に見えていた光景に謎が溶け込んでいる部分です。何の違和感も持たずに読み進めていくうちに、ある人物のごくごく普通に思えた言動の数々に実はウラがあったことが明かされ、そこに隠れていた真意が突如として表面化します。これがなかなかえぐ味のあるものばかりで。読者は善行が悪意と策略に裏返る瞬間を目の当たりにさせられます。
青春は確かにキラキラだけど、それだけでは終わらない。水生大海らしい作品です。
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