2012.01/03 [Tue]
玩具堂『子ひつじは迷わない 走るひつじが1ぴき』
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★★★☆☆
――というわけで、
生徒会は毎週一回、皆さんのお悩みを解決する相談会――『迷わない子ひつじの会』を主催いたします。
生徒の悩みを解決に導く「迷わない子ひつじの会」。そのメンバーである成田真一郎は、寄せられる風変わりな相談に大奔走!そんな時出会ったのが、生徒会室の隣を隠れ家にするボサボサ頭の仙波明希。ダラリと本を読んでいる彼女に、なにげに相談について聞くと、毒舌だけどとても的を射ていて――!? 実は生徒たちに「子ひつじの会」が広まったのは、この仙波の活躍があってこそだった!
「子ひつじは迷わない」第1作。
第15回スニーカー大賞“大賞”受賞作。昨年度の『本格ミステリ・ベスト10』にてライトノベルミステリ特集のコーナーで触れられ、何人か投票もしていた(正確には2巻にですが)ので読んでみました。
基本的なフォーマットは、生徒会主催の「迷わない子ひつじの会」に持ち込まれた相談事を隣の部屋で読書中の仙波明希が気だるげに解き明かすという安楽椅子探偵モノ。この仙波、ほんっとに動かないです。ぽやきのさんなる謎クッションに身を預け、遂に最後まで部屋から出ることはありませんでした。ライトノベルのヒロインとしてそれはどうなんだろう……。
収録作全4編がそれぞれに独立した日常の謎ミステリになっており、まず目に付くのが議事録形式が採られた独特のパート形式です。相談者からの聴取記録というカタチで記されるAパートはところどころに筆記者の注釈処理が付され、はじめはやや読み難く感じるものの、書いてある順番通りに文字を追っていけばあまり気になることもなく、問題なく読み進められます。
このパート分割が本書をよりミステリらしくしているポイントで、“関係者証言→議論パート→解決編→事後報告+次話への繋ぎ” の流れを徹底していることで問題提起から謎解きまでの見せ方が非常にスムーズなのです。関係者証言=問題編の段階ですべての推理材料が提示されていて、議論パートを経て「さあ推理してみましょう」となる。私は本格ミステリが本格ミステリであるための条件のひとつは、「解くべき問題が明確であること」だと思っているので、これは結構重要です。
読者が解くべき問題は何なのか。ラノベミステリに限らず、それをきちんと示していないでミステリ“風”小説になっている作品も意外と多かったりするのです。
今巻では第一話「VSラブレター」も捨て難いのですけど、特に良かったのは第三話「VS宇宙怪獣」です。文芸部のOBが昔書いた未完の短編SF小説に合理的な結末を与えるというもので、怪獣の弱点について「なんとなくそうかも」レベルの思いつきのような解答を、手元にあるデータで補強に補強を重ね「これしか考えられない」ところまで持っていってしまいます。
ここではそのまま解答として作中に落とし込めないようなメタ的な推理も為されたりするのですが、逆にそういった部分を書き方次第でさらなる補強材料に変えることも可能なわけで。なんというか、文芸部魂が疼く話でした。
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