2011.12/28 [Wed]
アントニイ・バークリー『毒入りチョコレート事件』
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★★★★☆
技巧的な論証は、ほかの技巧的なものがすべてそうであるように、ただの選択の問題です。
何を話し、何をいい残すかを心得てさえすれば、どんなことでも好きなように、
しかも充分に説得力を持って、論証できるものですよ。
ロジャー・シェリンガムが創設した「犯罪研究会」の面面は、迷宮入り寸前の難事件に挑むことになった。被害者は、毒がしこまれた、新製品という触れ込みのチョコレートを試食した夫妻。夫は一命を取り留めたが、夫人は死亡する。だが、チョコレートは夫妻ではなく他人へ送られたものだった。事件の真相や如何に? 会員たちは独自に調査を重ね、各自の推理を披露していく――。
「ロジャー・シェリンガム」シリーズ 第5作。
多重解決ものの元祖ともいうべき小説。バークリーは以前に『ジャンピング・ジェニイ』を読了済みですが、もともと読んでみたかったのはこちらの作品でした。
ミステリで最も盛り上がるシーンはやはり謎解き場面でしょう。明らかになる伏線、紡がれる論理、驚愕のトリック……。「名探偵 皆を集めて さてと言い」のシチュエーションでテンションの上がらないミステリ読みは恐らくいないハズです。本作はシェリンガム率いる犯罪研究会の6人が、巷を騒がせるベンディックス夫人殺害事件を解き明かすために毎晩ひとりずつ持ち回りでそれぞれの推理を披露する、というまさにおいしいところだけをピックアップして書かれた、最初から最後までクライマックスな全編解決編のミステリ小説です。
披露される推理は警察の見解を含めると全部で8パターン。同じ事件を扱っているにも関わらず、よくぞここまで違った見方をできるものだと感心すると共に、いかにも説得力のある“真相”が次々と覆されて翻弄され続ける過程はただひたすらに快感です。ミステリにおいて真相を当てることは勿論重要なのですが、それ以上に「推理すること」がこれほど面白いものなのかと改めて実感させられました。
かといって、ここで行われていることが既存のミステリ(黄金期の作品に対して使う言葉としては変ですけど)とまったく別のフォーマットを採っているかといえば全然そんなことはない。本書はいわば、ラストバッターのチタウィック氏が自身の推理を発表する直前までが問題編でそれ以降が解決編。そこに辿り着くまでの間に提示されたいくつもの謎解きを利用して必要なデータを出揃わせ、謎解き場面そのものにヒントと伏線が散りばめられているのです。そう考えるとぱっと見変わってはいるものの、存外オーソドックスなつくりをしていたりもします。
ちなみに私の推理は某人犯人説で真っ先に挙がると思っていたのに、作中では1ミリも言及されず。まあ、それはまた別のお話ということで。
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