2009.06/28 [Sun]
古野まほろ『探偵小説のためのノスタルジア「木剋土」』
![]() | 探偵小説のためのノスタルジア 「木剋土」 (講談社ノベルス) 古野 まほろ 講談社 2009-06-05 売り上げランキング : 380601 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
★★★★☆
だってそういう海と違うじゃん。
漁船だよ。なま海だよ。なま瀬戸内海だよ!!
獄霊島―そこは世界から忘れられた瀬戸内の孤島。ふたつの旧家の澱んだ血脈が、銀山の跡目を争うとき、和歌の調べとともに、悲しき連続殺人劇の幕が上がる!呪われた遺言、謎の大量殺人鬼、そして不可解な見立て。怨念の島に隠された忌まわしい因果とは…ってそんなことよりコモが死んじゃった!!コモが犯人に負けた!?もう、べろちゅうができないなんて、そんなのいやぁっ!!
『探偵小説』シリーズ第3作。
なんか表紙イラストが耽美なんですけど!!
イラストレーター変わったのかと思っちゃいました。
加えて、
ハイ・テンション!ビリビリ来てるよ パワフル・ワールド 全開中~♪なあらすじ。
これ以上購買層絞ってどうするのさ?
(てなわけで以下、ネタバレ)
ノスタルジア――故郷を、或いは過ぎ去った過去を懐かしむこと。
ガチガチのガチでこれでもかというくらいにオーソドックスなミステリの要素を詰め込んだ今作。それはミステリに対するノスタルジアであり、獄霊島の体制もノスタルジア。紗幕谷枝里にとっても獄霊島はまたノスタルジア。水里あかねから見たらこの一連の事件――それこそがノスタルジア。
ノスタルジアに始まり、ノスタルジアに終わる。現在までのシリーズ3作で、いちばんタイトルがしっくりときました。これ以上にないタイトルです。
さて。まず今回、構成としてもっとも特徴的なのが巻末にまとめられた『水里あかね妄想集』と供述調書をはじめとする『捜査書類』。小説というよりパズル問題です。機械的というか。
前者は別に本編に直接ぶち込んでも問題ないのですが(初心者対策?)、あかね曰く“身を切るようにシリアステイストにしている”ためらしいので。それもそのはず。前2作とはうって変わって、今回は人が死にます。それもぼすぼすと。シリーズを続けていく上で、このまま死人が出ないのは不自然かなぁと勝手に心配していましたが、杞憂でした。まぁ超絶的な荒業によってここらへんは一応、シリーズのテイストを守れるようになっているのですが……。個人的にはこの荒業は“アリ”ですね。これがあったから何ともいえないしんみりさ(=ノスタルジア)と“おそらくは……”という希望を残して物語が終えられたわけで。重要ですよ、これは。
問題はコモが今回、“自分の目的”のために殺人を見過ごしたことですね。黄金期の海外ミステリにあったような探偵の自己顕示欲(演出行為)が防げたハズの犯行を実行に至らせてしまう、というのとはまた別のパターン。妖狐・玉藻前の娘である人外のコモからしてみれば、そもそも犯人や被害者(となるべき人間)に逢った時点でその人の運命がわかってしまうので、論理的な証明云々の前に犯行の阻止が充分に可能なんですよね。ホロスコープで見えた未来が何をしても変わらない“最終的な未来”だったり(ラストの展開的にそれはなさそう、コモに見えているのはあくまでも“流動の未来”っぽい)、占い師は運命になら介入できないとかなら別ですけど。楓や夕子といった友人たちに“配慮”して一度島を出たくらいだし、コモ自身はそこまで非道い人間(おっと狐?)ではないと思う。後者かなぁ?いや、そうであってほしい。
話が逸れました。構成の特徴のもうひとつ、『捜査書類』でしたね。
本作、『木剋土』で起きた最初の事件・鹿太郎殺しにおいては巻末捜査資料で外田警部による関係者聞き取りが供述調書として、それをまとめたアリバイ証明書と共に巻末に載っています。つまり、わ
れわれ読者からしてみればこの供述調書の中に伏線が撒かれているのが丸わかりなわけです。要するに、「次のヒント文を読んで犯人を導き出しなさい」という数学のテスト問題と何ら変わらない。伏線をいかに巧妙に張っておくかを重視するミステリにおいては致命的っちゃあ致命的です。しかし、逆にいえばまほろさんは読者に「伏線の場所をわざわざ教えている(ここ傍点つきで)んだけど、それであなたにはこの問題が解ける?」とこの上なくフェアで、自信満々に挑戦してきているともいえると思います。で、結局解けない。おそるべし、古野まほろ。
もうひとついうなら、関係者聞き取りって結構ダレるんですよね、長ければ長いほど。主人公側にとくに動きがあるわけじゃないし。『チーム・バチスタの栄光』なんかは田口先生による関係者聞き取りが大部分を占めていて、それが読み進める上でなかなかに辛い。それを改善させるための策だったんじゃないかと。また、本文中にぼんと投げ込まずに巻末に収録したのは後の事件時に参考として見るとき、いちいちどのページだったのか探さなくて良いように。まぁ小説の体裁としては不恰好になることに変わりないですけど。
供述調書といえば、もうひとつ。あかねのお兄さんの名前、“水里適=みなざと・かなえ”ということが判明しましたが、これもあかねと同じく五行の完全名ですね。
みな=水 ざと⇒里=土 か=火 (かな=金) なえ⇒苗=木
なんかの伏線なのかな?
て、まほろさんが好きすぎてつい語りすぎたww
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