2011.12/19 [Mon]
寵物先生『虚擬街頭漂流記』
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★★★★☆
わたしたちの間に、これがあるかしら?
大地震で寂れ果てた台北・西門町。かつての賑わいは仮想空間に移されたが、そこで恐るべき殺人が発生。だが、殺人が起った時間帯に仮想都市に存在した2人には完璧なアリバイがあった――。SF的設定の中に仕組まれた高度なトリックと、結末に思わず涙する感動のストーリー。
第1回島田荘司推理小説賞を受賞した台湾産の本格ミステリ。当然のことながら地名や人名も聞き慣れないものばかりとはいえ、見開き毎にルビを振ってくれているので安心できます。日本の小説とそう変わらない感覚で読み進められるほどで訳者さんの力量が何気に凄まじいです。
ストーリーも感動というよりは美しい悲劇といった趣で印象深い。読者を騙すための仕掛けが折り重なって最終的に円環構造を描き、それが結果として物語性を惹き立てるのに寄与しているところも良かったです。
バーチャル空間における殺人事件を扱ったSFミステリということで現実世界の死因はフォースフィードバック・システムであるものの、何がきっかけで被害者がダメージを受けるのかがわからない。仮想空間内で被害者を死に至らしめた原因は果たして何なのか、そして犯人は誰なのか?というのが本作の命題です。ここに犯行時刻にログインしていた人間は主人公とその上司の2名のみ、仮想空間ではユーザの発揮できる力は本来の80%に制限され、容易には人を殺せないといった条件が付加されて事件をより複雑にしていきます。
実のところ今回は犯人を含め真相のかなりの部分まで当てることができたのですが、それでもいくつか見抜けなかったところがあって、その巧妙かつ大胆な仕掛けと伏線には舌を巻きました。確かにバーチャル空間内に○○○○○がいるのはおかしいと思ってはいたのですけど、これは悔しかった。
(以下、ネタバレあり)
少しツメが甘いなと感じたのは、犯人が艾莉の場合、彼女はいわゆる店員NPCとはまったく異なる“特別な”存在なので「NPCが店舗から15m以上離れると警報が鳴る」ルールに抵触しない可能性を残してしまった点です。要するに、艾莉が他のユーザと同様に西門町内を自由に移動できるキャラであり、だからこそ感知されずに殺人を犯すことができたとも考えられたわけで。
そうなると折角よく出来ていた大山のワープに掛かるロジックが堅牢さを欠いてしまうんですよね。死体移動トリックなんてものは本当はなくて、ただ艾莉を庇うためだけに行った偽装とも取れてしまう。そこを潰しておくためにも艾莉が⑪付近の洋服店で働いていたことを示す伏線は予め張っておくべきでした。
――と、まあそれ以外は大変満足。クオリティの高いミステリであることには違いないです。寵物先生の他の作品も読みたいのに、台湾の小説を訳してくれるような機会ってそうそうないんだろうなあ。勿体ない。
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