2011.12/17 [Sat]
西尾維新『トリプルプレイ助悪郎』
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★★★★★
それなら――私は、探偵としてはそれほど推理小説を読む方ではありませんが、
それでもそれくらいはわかっています――それなら、常識として、あなたは知っているはずでしょう。
岐阜県の山奥――裏腹亭。偉大な作家・髑髏畑百足が生活していた建物に、その娘であり小説家である髑髏畑一葉はやってきた。三重殺の案山子・刑部山茶花が送りつけた予告状から事件は始まる――。
「JDCトリビュート」第2作。
西尾維新の著作でシーンに大きな影響を与えたものといえばやはりデビュー作である『クビキリサイクル』で、代表作を挙げるのならアニメ版も大ヒットを飛ばし小説そのものの完成度も高い『化物語』ということになるでしょう。私も本作を読むまでは『化物語』が氏の最高傑作だと思っていました。しかしながら、これを読んでしまうとその認識を改めざるを得ません。ページ数も170と極めて短く、西尾作品の中でもとりわけマイナーな部類に入るのでいままで読み逃してきましたが、とんでもない。『トリプルプレイ助悪郎』、個人的にはオールタイムベスト級のミステリでした。
一回盗みに入る度に三人の人間を殺す怪盗、刑部山茶花が次に狙いを定めたのは作家・髑髏畑百足の最期の作品。予告状を受け取った一葉が裏腹邸を訪れ見張りをする中、一葉の妹・二葉が密室の書斎で死んでいるのが見つかり――というのが主なストーリー。薄い本なのでとんとん拍子に解決編まで進み、真相が鮮やかに解明されます。それだけならばここまで絶賛はしなかったでしょう。本作の本当に凄いところはそこからなのです。
実はこの『トリプルプレイ助悪郎』という小説はミステリとして見るとある反則技が用いられています。本来ならアンフェアと見做される部分を力技でフェアに持ち込んでくるのですが、その理屈がここまで周到に舞台を整えられたらフェアと言うしかないだろう、といった代物なのです。
ミステリには公平な謎解きゲームであるために最低限守るべきルールがあり、それを逸脱するとアンフェアだと認定され、結末にどんなに素晴らしい真相が待っていようとその時点でミステリとしての価値は地に堕ちてしまいます。そのことを重々承知した上で、敢えてその禁を破り尚且つ反則技を押し通すための理屈それ自体がひとつのミステリ的なサプライズを演出しているのがこの小説です。
現在の西尾維新のメイン読者層である普段本格ミステリを読まない人たちには恐らく伝わらない。これは日頃からフェアだアンフェアだ、とぐだぐだ議論しているような輩にこそ絶大な効果を発揮する一撃で、まさかこんな攻め方があるとは思いもよりませんでした。
これは本ミス20位圏内いっただろう、とちょっと調べてみたら2008年版で30位にも入ってないじゃないですか! 投票者がフシ穴すぎるのか、私がキワモノ好きなのか――たぶん後者でしょうけれど、もっと多くのミステリファンに読まれて良い作品なのは確かです。
西尾維新にはもっとミステリを書かせるべき。来春刊行予定の新作『悲鳴伝』にも期待しています。
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