2011.11/20 [Sun]
山田彩人『眼鏡屋は消えた』
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★★☆☆☆
やるじゃん、あたし……。
あたしは自分をホメてやりたい気分だった。八年たつとあたしはこんなにきれいなお姉さんになるのか。
どう努力してここまできたかおぼえてないが、あたしにしちゃあ上出来だ。
気がつくとあたしは演劇部の部室の床でのびていた。そのうえ八年間の記憶が失われ、現在あたしは母校で教師になっているらしい。しかも親友の実綺が高二の文化祭直前に亡くなっていたなんて!!! 八年前と同様に学園内では、彼女の書いた脚本『眼鏡屋は消えた』の上演を巡るごたごたが起きている。実綺の死には何か裏がありそうだ。上演を実現し、自分の記憶を取り戻すため、元同級生の探偵に事の真相を探ることを頼んだ。あたしが最も苦手とする、イケメン戸川涼介に――。
第21回鮎川哲也賞受賞作。
「やっぱ男は心だよ!」「違うでしょ?」『顔よねぇー!!』@うしろゆびさされ組 なイケメン大好き能天気ヒロインの語り口に、とにかく癖がある。口語体主体かと思いきや妙に堅い文語体が混じってくるわ、ヒロインである藤野千絵の思考がぶっ飛んでるわで、この無駄にハイテンションなノリについていけないと相当苦しいです。これをリーダビリティが高いとは言わないだろう。間違いなく人を選ぶ文章です。
ここ8年間の記憶を失ったヒロインが、高校時代に“自殺した”らしい親友の死の謎を追うという一風変わった趣向の本作。受賞の言葉によるとトリック主眼のミステリには限界を感じ、謎解きの過程を楽しむ小説を目指したとのことで全編に渡って調査と推理が展開されます。しかしその割には肝心の真相究明へのステップにおいて想像の範疇で答えを出してしまっているのが辛い。こういった作品の場合、伏線を拾って論理を確固たるものにしてゆく過程がイコールでミステリとしての面白味に繋がるものだと思うのですけど、そうはなっていないんですね。
10人読んだら10人とも疑うような最も怪しい人物がストレートに犯人なのも捻りがなさすぎるし、8年も時間が経っているのに証拠品のあれこれがほぼ完璧な状態で残っているのはさすがに都合が良すぎる。それなりに重みのある結末を迎えたにも関わらず、千絵の語り調子がことごとく軽いままなのにも違和感満載です。
著者の掲げる本格ミステリ像には大いに賛同したいところですが、今作がその目標点に届いているようには到底感じられませんでした。
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