2011.11/06 [Sun]
古野まほろ『天帝のあまかける墓姫』
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★★★☆☆
うわ、大臣も使うんだはふう。確かにはふうだが。
探偵小説の神の無情な悪戯か、高校3年生・古野まほろが乗った政府専用機は大虐殺の末、ハイジャックされてしまう。地上四、〇〇〇メートルを切ると大爆発を起こす空飛ぶ密室のなか、やはり連鎖してゆく殺人と裏切り。14の「読者への挑戦」そして探偵たちの推理合戦の果てにまほろが見るものは?
『天帝』シリーズ 第5作。
全作絶版で一時は続編刊行が危ぶまれていた『天帝』シリーズが版元を幻冬舎に移して再始動。カバー袖の講保談太郎への宣戦布告は大丈夫なのかと本気で心配にならなくもないですけど、まあこのノリも含めて一種のギャグみたいなものなんだと流しておきましょう。ちなみに設定等々は先日刊行された新訳版に準拠しているようです。
時系列では前作『天帝のみぎわなる鳳翔』の直後、夏休み中ということなので引き続き『探偵小説のためのエチュード「水剋火」』と『探偵小説のためのヴァリエイション「土剋水」』の間のエピソードに当たります。
まほろに次ぐもうひとりのよりましの存在も話題に上り、『探偵小説』シリーズとのリンクも強調されているので「相生」シリーズが読める日もそう遠くはないかもしれない。まさか、あかねたちの知らないところで修野嬢の手で実予の街が壊滅の危機に晒されていようとは。極悪すぎる。
毎度、過剰ともいえる舞台装飾ととにかくド派手な大量殺人が目玉の『天帝』シリーズ。今作でははなんと地上18Kmの成層圏を飛行する超音速旅客機コンコルドの後継機・おおろらが事件の舞台。政府高官が大勢乗り込む日本版エアフォース・ワンがテロリストにハイジャックされ、虐殺に次ぐ虐殺の末50名以上の死者を出します。そして勿論、これらの虐殺行為が単なる賑やかしに終わることなく、むしろ盲点として謎解きの中に活かしてくるあたりはさすがです。
光文社刊の2作がかなりマイルドな作風になっていたので今後の方向性を心配もしていましたが、まったくの杞憂でした。読みやすくなっても文章の密度は依然として変わらず、綿密でしつこすぎる推理過程も健在。これぞ古野まほろの本領発揮。謳い文句に偽りなしの完全復活です。
それは確かなのですが展開の一部にどうしても納得のいかない部分があって、★×3にした主な理由はそこです。
(以下、ネタバレあり)
最も気になったのはペイント弾のトリックです。天津秘書官と松山警部補が生き残ったまでは良いです。問題はそこからで、静浜秘書官が所持していた H&K PSG-1 に細工を施したタイミングがまるでわかりません。いつ誰がどういった手段で静浜秘書官の銃をいじったのかにまったく触れられていないんです。
ローズの件も同様で、佐渡軍属が子供を撃つハズがないから→ローズは死んでいないという論理は理解できるものの、じゃあどうしてローズを撃ったのかがいまいち見えてこない。この場合、少なくとも佐渡軍属とローズとの間で事前打ち合わせが行われていないと、撃たれたローズが死体役を続けているのは不自然極まりない状況ですよね? しかしそこにも何の描写も説明もなく完全にスルーされている。どうにもすっきりしません。
もうひとつ疑問だったのはダイイングメッセージの解法です。本作ではまほろによってダイイングメッセージのロジックによる絵解きが試みられていますが、そこでひとつの基準として挙げられているのが“七画以内に書けること”です。遺されたメッセージを見るに、被害者には七画程度までは書き残す時間があり、どのような形であっても加害者の名前を七画以内で断定し切れないからこそ不可解な暗号で表現した、ということになっています。しかし大嶋外務次官の名前って「大しマ」と書けば余裕の六画でイケるのでは……?
それから些細な点ではあるものの、栄子さんとまほろの探偵ふたりを分断し、互いに別々の推理を披露させたことで、まほろがどこまで栄子さんの推理を取り込んでいるのかがはっきりとせず、防犯カメラのクリア方法に同じく“死体の壁”を採用していることが後になってようやく判明するという多少の伝わり難さも感じました。
――と、まあ色々と書きましたけども伏線回収は相変わらず圧巻の極みだし、ストーリーは面白いし、キャラも愉しいし、読後は心地良い疲労感に浸れるしと充分以上に満足できる作品ではあるのでした。5つ目の神器も無事ゲット(?)で残りはあと2個。まほたん自身は「最低でも神器の数+1」と言っていましたが、そのうちひとつは既に12月に手に入ること確約の村正の籠釣瓶だからそろそろシリーズの終わりも近そうです。『天帝のやどりなれ華館』、早く来い!!
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