fc2ブログ

積読本は積読け!!

300冊の積読本もなんのその、本や映画の感想などをつらつらと述べてみたり。

Entries

古野まほろ『天帝のはしたなき果実(新訳)』

天帝のはしたなき果実 (幻冬舎文庫)天帝のはしたなき果実 (幻冬舎文庫)
古野 まほろ

幻冬舎 2011-10-12
売り上げランキング : 40693

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

★★★★☆
ヒトのこころはブラックボックスだからだ。どの様に科学技術が発展したとしても、
ヒトの思考する自然数論を含む帰納的に記述可能な公理系における命題を
物理的かつ客観的に解読することは出来ない

勁草館高校の吹奏楽部に所属する古野まほろは、コンテストでの優勝を目指し日夜猛練習に励んでいた。そんな中、学園の謎を追っていた級友が斬首死体となって発見される。犯人は誰か? 吹奏楽部のメンバーによる壮絶な推理合戦の幕が上がる! 青春×SF×幻想の要素を盛り込んだ、最上かつ型破りな伝説の本格ミステリ小説が完全改稿され文庫化。


『天帝』シリーズ 第1作『天帝のはしたなき果実』新訳版。
 講談社ノベルス版も持っているけれど全面改稿ということで改めて購入。文庫本にして750ページオーバー、定価込みで1000円ちょいする堂々の煉瓦本です。
 文庫化にあたっては、新訳と銘打つだけのことあって設定その他に大幅に手が加えられています。小説自体の感想は既に旧訳の方で書いているので、今回は主に変更点についての感想を述べていこうと思います。

 まず第一に文章が圧倒的に読みやすくなりました。古野まほろといえば独特のまほろ語と酔わせるような美しい文章でお馴染みの作家ですが、それらの要素が新規読者に対して決して易しくなかったのも事実です。特にデビュー作となる『果実』ではそれが顕著で英仏独語が氾濫する読者置き去りな超絶言語の数々は私を含む多くのチャレンジャーたちの心をへし折ってくれました。しかも無駄に長い。終盤でいきなりSF/ファンタジーちっくな超展開が待っている等々、商業小説としては多くの問題を抱えた作品でもあります。
 だからこそ、今回の手直しです。講談社から発表の場を移した『群衆リドル』『命に三つの鐘が鳴る』はこれまでの作品が嘘のように大人しい文章でした(それでも特徴的ではあるのですが)。一般読者に訴え掛けるにはこれまでのような奔放さでは難しかったのです。
 お得意のルビ振りもすっかり鳴りを潜めてしまったのはファンとして残念ではあるものの、仕方のないことでもあるとは承知していました。それだけに『天帝』シリーズ文庫化に際してルビの全削除すら覚悟していたのですが、結果としてはまほろ語の使用と度の過ぎたおふざけを適度に抑えつつも基本的にルビは生かすカタチでの文庫化と相成りました。ファンと新規読者の両方が、互いに許せるギリギリの境界がこの新訳の文章なんじゃないでしょうか。
 「便宜上、じごくのさんぼう、やみのぐんばつA及びやみのぐんばつBとしよう」云々の地の文が削除されているのが淋しい限りでしたが、エピソードの取捨選択と再構成によって時系列経過がかなりわかりやすくなったのと、公理制の導入で推理合戦における論理展開を追いやすくなっているのは大きかったです。

シリーズの根幹となる設定面についても、いくつか変更が為されていました。主な変更点を挙げると、

(以下、若干のネタバレあり?)


・峰葉さんの名前が詩織から実香になっている
・同じく浅見警部補が紙谷警部補に名称変更
・まほろの妹が初登場
・まほろの両親が他界している
・まほろの「親しい人間の心の声が聞こえる」設定の排除
・奥平の出番が大幅減
・栄子さんと奥平が付き合っていたことに
・緑縁メガネさんこと渡辺夕佳への言及が大幅増
・ユカと由香里ちゃんが親友設定に
……エトセトラエトセトラ。

 他にも天帝と神器、狐の存在も再定義されていて、これまでぼんやりとしかわからなかった世界像がいっきに明瞭化されてきた感じがあります。ユカ関連はイエ先輩シリーズの『絶海ジェイル』への布石っぽいですね。とはいえ由香里ちゃんの心境に変化が出てくるのは『探偵小説』シリーズ以後なので、実予以前の友達関係が彼女を揺さぶることになることになるかどうかは判断が難しいところ。
 ここで問題なのは次作以降の『天帝』シリーズが旧訳版と新訳版、どちらの設定で書かれるのかです。主要キャラクターの名前が変わっていると文庫版を手に取らなかった人には「?」だろうし、かといって旧訳のままだと新しく入ってきた読者が「??」になる。その辺は既にアナウンスされていた『天帝のやどりなれ華館』ではなく『天帝のあまかける墓姫』が5作目になっているあたり、微調整を入れてくるとは思うのですが。まほろ作品は基本的に『マクロス』的な劇中劇解釈の上に成り立っているので、多少の齟齬も許されるっちゃあ許されます。でも有栖川エコールで新訳まほろが旧訳『天帝』を、旧訳まほろが新訳『天帝』を書いている、とかだったりすると結構嬉しかったり。
 何にせよ新刊は来週発売予定。あと3日、大人しく待っておきます。


スポンサーサイト



Comment

Comment_form

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

ご案内

プロフィール

はろーすみす

Author:はろーすみす
シリーズものも平気で数年寝かせる積読家。本格ミステリとスター・ウォーズ小説を中心に読み漁り、新刊・話題作はあまり追っていません。

好きなミステリ作家は古野まほろ、はやみねかおる、西尾維新、霧舎巧。
ジャンル外では築山桂と小川一水。
講談社ノベルスをこよなく愛す特ヲタ。

当ブログはリンクフリーです。
お気軽にどうぞ。

カレンダー

02 | 2023/03 | 04
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -

ただいまの積読本

現在:456冊                        目指すは未踏の500冊! 最新の15冊を表示。                 冊数をクリックするとすべての積読本を見られます。

ブログ内検索

作家別作品アーカイブ

過去の読書記録はこちらから。 作家名が五十音順に、それぞれシリーズごとに見られます。

評価について

★☆☆☆☆ 破り捨てたい衝動に ★★☆☆☆ うーん。これはびみょ(ry       ★★★☆☆ 普通に面白いです ★★★★☆ 一読の価値アリ ★★★★★ 殿堂入り                ★×4以上は自信を持ってオススメ  ★×5はとりあえず読んでほしい傑作

2014年のベスト5

2014年に読んだ小説の       (暫定)ベスト5はこれ!!

2012年のベスト5

2012年に読んだ小説の        ベスト5はこれ!!

2011年のベスト5

2011年に読んだ小説の          ベスト5はこれ!!

1.トリプルプレイ助悪郎(2007年刊)   2.名探偵に薔薇を(1998年刊)             3.化物語(2006年刊)          4.時砂の王(2007年刊)                  5.天帝の愛でたまう孤島(2007年)

最近の記事

月別アーカイブ

ブロとも申請フォーム

アソシエイト

アクセス解析