2011.10/13 [Thu]
京極夏彦『ルー=ガルー 忌避すべき狼』
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★★★☆☆
動物って動く物って書くだろ
あたしたちあんまり動かなくなったし。人間は本当に動物やめる気なんだ
近未来。少女・牧野葉月は閉じた世界に生きていた。携帯端末(モニタ)という“鎖”に繋がれ監視された内部に不純物が入り込む余地はなく、安全なはずだった。そこに突如現れた一片の狂気――それは少女達を狙う連続殺人鬼!物理的接触(リアルコンタクト)して初めて知る友達の存在。自由を求め、鎖を引きちぎった少女達を待ち受ける驚愕の真相とは……!?
「ルー=ガルー」第1作。
続刊が出る前に積読していたものを消化。って、これもう10年前の作品なんですね。今回読んだ講談社ノベルス版は映画化決定時に刊行されたものでそれでも憂に2年前。発売直後に購入したのにいまのいままで本棚の肥やしにしていました。分厚い小説はなかなか読み始めの一歩が踏み出せないもので。
本作は京極夏彦初の近未来ミステリです。過度な生命倫理観念から食料はすべて合成食品になり、モニタを介して必要なデータはモニタを介して閲覧、オンライン上以外では他人と関わらなくても不自由なく生きられるようになったディストピア。そんな、自分たちを取り巻く環境に何の疑問も抱いてこなかった少女たちが事件を通して“ほんとう”を知っていく物語です。
世界観設定などを『アニメージュ』等の雑誌にて公募し、それを基に著者である京極夏彦が小説を書くという一風変わったスタイルで創り上げられた本作は、思春期の女の子たちが主役なこともあってライトノベルっぽい、アニメのような話だと言われがちですが、私はどちらかといえば洋画のSFに近いものがあると思います。追って追われて、気付いたときには反逆者扱い。見張りの目を欺いて敵の本丸に潜入し、最終的に大ボスを叩いて事件を終わらせる。『ペイチェック 消された記憶』や『アイ,ロボット』、『デイブレイカー』といった作品群と非常に共通点が多いです。
メインとなる少女サイドの葉月視点と大人側から真相に迫る不破視点が各章毎に入れ替わり、別々のアプローチで同時進行してきたふたつの視点が最終的に交わる構成もそう。本来、日本人に好まれないらしいこの手の作劇方法を敢えてとっています。まあ、『24 -TWENTY FOUR-』以降の海外ドラマブームで現在は日本でもだいぶ馴染んできていますが。
外に出て他人と接する機械も減り、一日の大半をモニタの前で過ごす毎日、生命を奪わないで人工の食品だけで生き永らえる人間の姿は、もはや動物から逸脱してしまったのか。なぜ人は人を殺してはいけないのか。哲学的な問答も絡めたノベルス2段組600ページ弱の大ボリュームは、それこそまるまる一本映画を観終えたかのような読後感と満腹感をもたらしてくれます。
とはいえ、全体の軸となっているのはサスペンスでもミステリでもなく直球ど真ん中の青春小説。友達とはいつどの瞬間からそうなのだろう、と彼女たちは悩みます。セカイは淡泊で日常は味気のないものだけど、大切なものはいつでもすぐ側にあって、ちょっとの勇気を持って手を伸ばせば誰にだって手が届く。それはこの小説で描かれるような人間関係が希薄に見える近未来でもそうだし、現代社会においても何も変わらない。そのことに気付いていないから延々と考えてしまう。「“友達”だと思った瞬間から友達」で良いじゃないですか。簡単なことなのです。その結論に至るまでの逡巡こそが、この物語でした。
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