2011.10/08 [Sat]
真梨幸子『パリ黙示録 1768 娼婦ジャンヌ・テスタル殺人事件』
![]() | パリ黙示録 1768 娼婦ジャンヌ・テスタル殺人事件 真梨幸子 徳間書店 2011-08-26 売り上げランキング : 490329 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
★★★☆☆
君は、本当にバカだな。考えるから、苦しみが生まれるんだよ。
はじめから考えなければ、苦しむこともない
フランス革命の二十一年前。ルイ十五世治下のパリは、すでに革命の予兆を孕んでいた。貴族の醜聞を喜ぶパリ市民たち。訴訟趣意書を大きく脚色して儲ける印刷業者たち。とりわけ人々が喜ぶのは、若く美しき貴公子・サド侯爵の醜聞だ。そのサド侯爵が新たな暴行事件で訴えられた日。セーヌ河畔で最初の醜聞の相手であった娼婦ジャンヌが惨殺死体で発見された。あまりにも残忍な殺人を犯したのは、あのサド侯爵なのか? パリ警察でただひとり、放蕩貴族の監視を任務とする私服警部ルイ・マレーが捜査で出会う「悪」の姿とは……。
18世紀パリを舞台に、娼婦惨殺事件の謎を解き明かすミステリ。死んだ娼婦が貴族のサド侯爵と浅からぬ因縁があったため、スキャンダルの揉み消しを担当するマレー警部が早急に事件を調べることになります。
この時代のパリは人も環境もとにかく腐りきっている。糞尿が積もり、ぬかるみを作る街路。貴族の恥を話のタネにする民衆。金で買われる権力。当時の風俗とフランス革命前のパリを包み込む異様な空気、綻びを見せる社会制度がジャンヌ・テスタル殺害事件の真相に直結してきます。身体の各部を傷付けられ、切り取り抉られたジャンヌ・テスタルの死体から浮かんでくる事実は、現代の倫理観からするとまず考えられないような代物なのですが、それだけのことが何の問題もなく成り立ってしまい、尚且つ日常茶飯事とばかりに流されてしまうところはもはや狂気としか表言いようがありません。
推理してどうこうなるタイプの真相ではないこともあり、いざ明らかにされると些か拍子抜けな感があるのは事実です。しかし、ジャンヌ・テスタルというひとりの娼婦の死を描くことで当時のパリがいかに堕ち切っていたのかを悟らせる図式こそ本書の真骨頂。最後のどんでん返しも本格らしくて良かったです。
それにしてもこの“操り”はなんというか……セカイ系? 下手に実在人物と非実在キャラがない交ぜになっている作風だけに例の発言には拒否反応が出る人もいるかも――いや、そういう人は表紙がイラストな時点で敬遠するのかな。私はぞくりと来て結構好きなのですけど。
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