2009.06/08 [Mon]
神楽坂淳「サイダーの気がぬけるまで」

★★★★☆
あら。どうしましょう。胡蝶さん。わたし、お土産のひとつも持っていないわ
時は大正14年。良家の子女が通う由緒正しき女学校――東邦星華女学院に通う月映静はとある「作戦」を考えていた。双子の姉・巴は近ごろ、口を開けばふたりと同じ野球チームの仲間・鈴川小梅の話ばかり。そんな腑抜けた姉に「喝を入れる」作戦。
計画を実行すべく、静は後輩の胡蝶を伴って小梅の実家、洋食屋<すず川>を訪れる――。
『大正野球娘。』番外編。
無料配布の小冊子に載っている書き下ろし短編小説。
大正時代ってなんか不思議な魅力があります。個人的に大正時代には思い入れがあって、ずっと昔、新春SPドラマにモーニング娘。メンバーが『伊豆の踊子』、『はいからさんが通る』、『時をかける少女』の3本立てドラマをやるといった企画があったんですよ。あのドラマにはなぜかすごく影響を受けていて、今でも人生における“読まなくてはならない”小説として『伊豆の踊子』が胸中にありますし、あの『はいからさんが通る』が自分の大正時代に対する憧れ的なものの原点だと思っています。『時をかける少女』もそのうち読もうと思っています(その時のためにアニメの『ときかけ』は封印)
そして、ある日の本屋さん。目の前にはアニメ化決定の販促用冊子が……。これを読まずして何を読めと?そんなテンションで一部もらってきました。
とかいいつつ、原作は未読。作品の存在自体はノベルスコーナーで表紙を目にしたことがあって知っていましたが、この作品に実際に触れるのは今回の短編が初です。
――が。
これには1行目――いえ、1単語でやられました。陶酔ニルバーナですよ。
その1行目というのが
かろん、と、涼しげな音をたてて、グラスの中の氷が鳴った。
「かろん」ですよ、「かろん」
普通、ここで使う言葉といったら「からん」じゃないですか。それが、「かろん」
そして、この「かろん」という言葉がほんとうに涼しげで、ぴったりなんですね。氷が鳴る音も「かろん」が合うこと、合うこと。なんでみんな「かろん」を使わなかったんだろう?と思うくらいにぴったり。
や、これしか読んでいないのにファンになってしまいそう。
総じて9ページしかない短編ながら、きちんと最低限のキャラクター相関が理解できるように作られ、さらに今短編の主人公・月映静が単なる意地悪い少女に映らないようその魅力が存分に描かれる。その上で大正時代の雰囲気(サイダーについての説明や「クリーム色」が「くりいむ色」だったりと)もきちんと出している。素晴らしいのひとこと。
これは神楽坂さんの小説、総ざらいする必要がありそう。
とりあえずはアニメのキャラデザも好みな『大正野球娘。』、観てから読むか、読んでから観るか……。
スポンサーサイト
Comment
Comment_form