2011.09/23 [Fri]
水生大海『善人マニア』
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★★★☆☆
ええ。天秤にね、……天秤はわかるわよね?
その一方の皿に、善いことを沢山積み上げて、努力もちゃんとしていれば、たとえ悪いことがあったとしても
バランスをとることができる。善いことに見合う運命を神様は用意してくれるのよ
人を殺した15歳のあの夜から、私は善いことだけ、積み上げてきた――。真面目で努力家の珊瑚。他人をアテにしてばかりの翠。中学時代に同級生だった二人は、修学旅行で、一人の男性を死なせてしまった。卒業以来二度と会わないはずの二人。だが、結婚を目前に控えた珊瑚の前に、なぜか翠があらわれる。次第に蘇る過去の記憶、身勝手な翠の振る舞い、突如連絡をよこす昔の不倫相手、そして、新たな惨劇とともに明らかになる15歳のときの事件の真相……。振り切れた善意が向かう結末とは――!? 終わったはずの過去をめぐり、女たちは探りあい、騙しあい、奪いあう。
水生大海の新作は女同士の諍いと人の身勝手で醜い面をとことん描いた小説です。読者含め、接する者を悉くイラつかせる自己中な翠の行いには始終フラストレーションが溜まりっぱなし。よくここまで都合よく生られるものだと逆に感心してしまうくらい。そんな具合なのではじめは主人公に同情心を抱くのですが、話が進むにつれて珊瑚も珊瑚でかなり自分本位な思考回路をしていることがわかってきて、“事件”が起こる頃には前半で常識人に思えた登場人物たちのメッキがどんどん剥がれていきます。どいつもこいつも如何にして自分を正当化するかしか考えておらず、読んでいて腹立たしい。書く方にしても読む方にしても、このどろどろとした生々しさを好むのは女性ならではの感性ですよね。大体にして男の子は『Sho-Comi』よりも『りぼん』の方が好きなのです(何の話
しかしこのオチは皮肉。一見すると善意を載せ過ぎた天秤のバランス修正の結果とも取れるのですけど、ここで量りに掛けられる“善いこと”は客観的なものというよりは主観的な快楽をどのくらい享受していたかを問題にしていて、自分が楽になりたくて善行を積んできた珊瑚も欲望の赴くまま自由に暮らしていた翠も、結局は同じ穴のムジナだったということなのでしょう。だから結果としてバランスが図られた。
前作、前々作に比べると本格度はずっと低くなっているとはいえ、最終的なオチに持っていくための伏線もさり気に張ってあって意外なところで“気付き”の快感が得られるので、ミステリとしての充足度は結構高かったりします。200ページ強の短い本で相変わらず抜群のリーダビリティ、もし迷っているのなら読んじゃった方が早いです。
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