2011.09/20 [Tue]
西尾維新『花物語』
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★★★☆☆
好きな奴がお前のことを好きになってくれるとは限らないのと同様
――嫌いな奴がお前のことを嫌いになってくれるとは限らないんだよ。
そして嫌われてくれるとさえ限らないんだ
“薬になれなきゃ毒になれ。でなきゃあんたはただの水だ”。阿良々木暦の卒業後、高校三年生に進級した神原駿河。直江津高校にひとり残された彼女の耳に届いたのは、“願いを必ず叶えてくれる『悪魔様』”の噂だった……。“物語”は、少しずつ深みへと堕ちていく――。
「化物語」第7作。
2nd season 3作目は神原駿河を主役に据えた「するがデビル」。時系列はうんと飛んで阿良々木くんの卒業後、語り手は神原が務めます。一人称視点で見る神原はこれまで阿良々木くん視点で捉えられてきたキャラとはまるで異なり、至って真面目の常識人。人望が篤いのも頷ける、頼れる先輩です。相手が違えば対応が変わるのは人として当然のこと。阿良々木くん視点で見えるものがすべてではなくて、セカイはもっと拡がっているわけです。阿良々木くんの前であそこまでキャラを崩せるのは、それだけ信頼しているということなのでしょう。
羽川主役の『猫物語(白)』以上におふざけ要素を排した本作はまるで別作品のようですけれど、ヒロイン各々が抱える苦悶だったり、人と人とが触れ合うことで変化する関係性を突っ込んで描いてみせる作風は紛れもなく「化物語」。言葉遊びでもメタなギャグでも時折出てくるミステリ要素でもなく、このシリーズで私が気に入っているのはその部分なのです。
他人から見た自分像と己の中にある確固たる自分自身との違いに戸惑い、一度は受け入れたハズの罪から解放され、喜んでいる事実に迷う。何が皆にとって幸せな結末でその選択が正しい答えなのかはわからないけど、このままじゃダメだと思うからなんとかしなくちゃいけない。かつて憧れた先輩のように、自分は誰かの助けになっていのだろうか――。
神原のこころとか、蠟花の孤独と救いだとか。これでもかというくらい悩んで、悩んで、悩んで、悩み抜いて。神原駿河を掘り下げてくれます。結果的にシリーズで最も派手さのない地味な作品になってしまったことは否めませんが、アニメのヒットも受けて一般にキャラ小説として読んでいる人も多い中でこういったチャレンジャブルなアプローチを臆せず仕掛けてくる姿勢は大いに評価したい。
『DEATH NOTE アナザーノート ロサンゼルスBB連続殺人事件』を読んだ際にも感じたのですが、もしかしたら西尾維新は自分の作家としての立ち位置に自覚的で、自らの読者層に一般文芸やミステリをあまり読まない人たちが相当程度いることを承知した上で敢えて、橋渡しの役割を担おうとこのようなタイプの作品を交ぜてきているような気がします。
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