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積読本は積読け!!

300冊の積読本もなんのその、本や映画の感想などをつらつらと述べてみたり。

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清涼院流水『キャラねっと完全版 愛$探偵ノベル』

キャラねっと完全版 愛$探偵ノベル (角川文庫)キャラねっと完全版 愛$探偵ノベル (角川文庫)
清涼院 流水

角川書店 2007-04
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★★★☆☆
おもしろいゲームをしていると、ウソのように、あっという間に時間が過ぎる。
だったら、ゲーム(人生)をおもしろくする努力を、すりゃいいんだよな。

爆発的な人気のオンラインゲーム“キャラねっと”。理想的な学園生活を疑似体験できるその仮想空間で、プレイヤーの操るキャラクターで突然「削除」される密室連続“殺人”事件が発生。その後もゲーム世界で立て続けに起こる不可解な事件の謎解きに挑むのは、サンタの衣装に身を包む「アイドル探偵」神宮べる。果たして仮想空間での超絶トリックを見破れるのか!?


 わが積読人生の中でも最古株の1冊をようやく読みました。文庫化当時に新刊で購入したのが4年以上前。気付けば既に絶版扱いで重版未定になっているじゃないですか。恐るべし積読の牙城!
 文庫本にして600ページオーバーの大作である本書は、もともと富士見ミステリー文庫から『みすてりあるキャラねっと』と出されたもので、ライトノベル市場のミステリからの撤退の煽りを喰らって続刊がお蔵入りになってしまった作品でもあります。それを2004年に「めいきゃっぴキャラねっと」「であいまちょキャラねっと」の2篇を加えてノベルス化、さらに加筆修正を加えてこの完全版に落ち着いたということで要するに小説3冊ぶんを丸ごと内包した内容になっていて、そりゃあ分厚いわけです。

 ネット空間内での殺人(デリキャラ)事件といった一風変わった謎が提供されるのはオンラインミステリならでは。ゲームの中の殺人事件なんて、考えようによってはやりたい放題自由な理屈を付けて処理できそうな気もするのですが、裏技が使われた形跡がないこと、複数のプレーヤーが目撃しているために現場が“密室”状態になっていること等々、犯行手段を縛る要素がいくつも登場するためきちんと推理を介在させる余地が出てくるところが良く出来ています。現実では到底不可能なゲーム世界ならではのトリックが用いられているのも面白い。
 ただし2篇目のミスコンやらせ投票事件になるとミステリ色が薄れてきます。というか「めいきゃぴキャラねっと」には根本的な問題があって“池丸女王がこんなに投票されるわけがない”というのがやらせを疑うひとつの根拠になっているのですが、ささきむつみによる挿絵イラストが普通に美人さんなものだから、池丸女王が実力で生き残っているようにしか見えないという……。まあ、これは著者に責任があるわけではないのですけど。

 池丸大王を語り部にした1年目、語り部を双子の姉・池丸女王に変更しての2年目、再び視点を池丸大王に戻して3年目――。ティーンエイジャー限定のオンラインゲーム「キャラねっと」をプレイする彼らの3年間を描いた本作は、至るところに“いま、この瞬間の素晴らしさ”を伝えたいというメッセージで溢れており、まさに御大流の青春賛歌ともいうべき小説でした。多少の説教臭さは否めませんが、清涼院流水がライトノベルとはどういうものなのか真摯な姿勢で突き詰めていった答えがそれなのでしょう。
 とはいえ、御大のラノベというメジャーリーグで「敗北」したという言説もわかる気がします。私はラノベ業界にはまったく明るくないのですけれど元オタクとしての意見を述べさせて貰うのなら、池丸女王のようなリアル女子高生キャラは話し方や思考回路も含めてラノベ読者の求めるものから最も対極の位置にあるだろうし、時事ネタを大量投入するのも現実を意識させすぎて嫌われると思う。この本を読んでわかったのは、どんなにライトノベル寄りのキャラ造形で荒唐無稽なストーリーだと称されようが、清涼院流水は紛れもなく一般文芸畑の作家だということです。

 ていうか最近、「○○はラノベ」「設定が厨二」とか言って作品を貶める人が多くないですか? 私の愛するモンスター・パニック映画もすぐに「B級映画として見れば面白かった」なんて言い方されますけど、そういったレッテル張りは作品に対して失礼です。そんな基準で良し悪しを判断するのはちょっとどうなんでしょうか。――と、『キャラねっと』の感想とはあまり関係ないことですが。


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はろーすみす

Author:はろーすみす
シリーズものも平気で数年寝かせる積読家。本格ミステリとスター・ウォーズ小説を中心に読み漁り、新刊・話題作はあまり追っていません。

好きなミステリ作家は古野まほろ、はやみねかおる、西尾維新、霧舎巧。
ジャンル外では築山桂と小川一水。
講談社ノベルスをこよなく愛す特ヲタ。

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