2011.09/27 [Tue]
ほしおさなえ『夏草のフーガ』
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★★★☆☆
家族ってなんなんだろうなあ。おたがい、ほんとうに大切なところはなにも知らないのかもしれない
母親とふたりで暮らす夏草は、祖母と同じ私立中学に通うことが憧れだった。願いはかない合格したものの、喜んでくれるはずの祖母は突然倒れ、目を覚ますと、自分を中学一年生だと言い張るようになる。一方、クラス内の事件をきっかけに学校を休みがちになった夏草は、中学生になりきった祖母と過ごす時間が増え、ふと、祖母が以前、口にした「わたしは罪をおかした」という言葉を思い出す。いつもやさしかった祖母の罪とはなんだったのか……? 互いのなかに見知らぬ闇を見たあと、家族は再び信じ合えるのか?
同作者の『空き家課まぼろし譚』がいわゆる本格ミステリではなかったのでそちらの方面を期待して読んだのではないのですが、それにしたって“感動長編ミステリー”は看板に偽りアリというか。さすがにこの内容だと“広義のミステリ”からも外れていると思うんだ。前に『日経おとなのOFF』に掲載されていたミステリ本ランキングに辻村深月の『オーダーメイド殺人クラブ』が入っていたことといい、ちょっとごっちゃにしすぎだよなぁ。
主人公は中学一年生の夏草(なつくさ)。女の子で四文字名! 霧舎巧も言っているように植物名以外で女の子の四文字名は相当珍しいですからね。それ故にまず馴染ませるところから始めなくてならない。“あり得る名前”と思わせることがなかなか難しい四文字名でありながら、「夏草」のネーミングは微塵の違和感も感じさせません。名前フェチとしてはこの時点で既に、内容関係なしに大歓喜でした。
本作はそんな夏草とお母さん、お祖母ちゃんの三世代に渡る物語です。それぞれの中一時代に体験した出来事が母から子へ、そして孫の代へと連なってひとつの物語を浮かび上がらせる構図はまさにフーガ。また、小説全体のキーアイテムとして扱われるフィンランドの民芸品・ヒンメリも、八面体と八面体を綿々と繋いで1個の美しい完成品となるわけで。小説そのものをヒンメリというモチーフの中に落とし込んでいる点にも注目です。
夏草の家族は父親と母親が数年前から別居状態にあり、お祖母ちゃんが倒れたことをきっかけにほんの少しだけ歩み寄るという家族の在り方を問うたスタンダードな再生ストーリーではあるのですが、そこに宗教と信仰の問題を絡め、さらには些細なことがきっかけでいじめの対象になってしまった夏草が自分自身と向き合い、本当の友人を得てクラスメイトたちと対峙するところまで描いていてかなりの盛り沢山。にも関わらず、どの要素も破綻させずにそれらすべてが最終的にヒンメリに集約される。よくぞここまで綺麗に纏め上げたものです。
3月に起きた東日本大震災も作中で取り上げられていたりして、作品には震災による価値観の揺らぎに対し著者なりの前向きなメッセージが込められています。ただ、うん。作者にそういった意図がないことは重々承知しているし、これは単に私が捻くれているだけなのだけれど、被災後4ヶ月というこのタイミングで小説にされると若干のあざとさを感じてしまわないこともないです。一時、テレビなどにあったとりあえず何でもかんでも被災地を絡ませる風潮みたいな。
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