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300冊の積読本もなんのその、本や映画の感想などをつらつらと述べてみたり。

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天祢涼『空想探偵と密室メイカー』

空想探偵と密室メイカー (講談社ノベルス)空想探偵と密室メイカー (講談社ノベルス)
天祢 涼

講談社 2011-08-04
売り上げランキング : 78248

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★★★★☆
あら。君はわたしの空想が見えて、会話もできるのね
密室に女優の死体―自他殺不明、凶器不明、動機不明。ミステリをこよなく愛し、並外れた“空想”力を持つ大学生・雨崎瑠雫と、彼女に片思いの宇都木勇真は謎を解くべく、行動を開始した。左遷された訳ありの刑事、女優の夫、各々の思惑が交錯する中、さらなる事件が……史上最兇の密室に隠された真相とは?


 天祢涼の新作は有名な探偵たちを空想で呼び出す(ただし本人と勇真以外には見えない)能力を持ったヒロインが登場する本格ミステリ。現段階でシリーズ化するのかは不明ですが「音宮美夜」シリーズはどうしても謎解きが共感覚に縛られてしまうので、3作目にして早くも完全新規作を投入してきた判断は正解だと思います。
 この空想能力は謎解きにあたってはまったくの役立たず。瑠雫の呼び出す名探偵はすべて彼女の思考から生まれてきているため、雨崎瑠雫の考えられる以上の発想ができない設定です。探偵役も瑠雫ではなく瑠雫の父親と勇真のふたりがこなします。

 じゃあどうしてわざわざそんな能力を付加しているのかというと、瑠雫のキャラを立てるのが目的です。ただし、この場合のキャラ立てというのは記号的な意味でのキャラ立てではありません。ぱっと見『極上生徒会』のプッチャンとりののようなひとり芝居的な空想能力ですが、瑠雫の場合はイマジネーション・コンパニオンなのです。幼少時、淋しさから生み出す“架空の友達”は大人になるにつれてその存在が消えていくものだそうですが、瑠雫は大学生になってもまだはっきりと空想してしまう。空想のポアロと楽しそうにお喋りする瑠雫を残して勇真が部室を出ていく場面の虚しさといったらない。瑠雫の背負ってきた孤独がどれほどのものであったのかがよくわかる。これを描きたかったからこその空想設定であり、そこにミステリ的な必然性を求めるのは違うでしょう。物語としてはこれで良いんです。

 自他殺不明、凶器不在の謎密室から導き出される真相の常軌を逸した計画性とその執念にはぞくりとさせられるほど怖ろしいものがあるし、凶器の処理方法にはかなりトンデモなトリックが用いられているのに伏線がばっちりで悔しい思いをしたりとお手本みたいなミステリに仕上がってはいるのですが、前2作と同様に全体としてはやはり地味。突飛なキャラ設定の割に文章と世界観が地に足着けすぎているのかなぁ。それが作風なのはわかっているけれど、もう少しポップなキャッチーさがないと年末のランキングで勝ち抜くのは難しいかと。

それはそうと。やっぱりポアロは“モナミ”に対しても丁寧語の方がしっくりきますね。
ヘイスティングズにタメ口の日本語訳は絶対認めない。


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はろーすみす

Author:はろーすみす
シリーズものも平気で数年寝かせる積読家。本格ミステリとスター・ウォーズ小説を中心に読み漁り、新刊・話題作はあまり追っていません。

好きなミステリ作家は古野まほろ、はやみねかおる、西尾維新、霧舎巧。
ジャンル外では築山桂と小川一水。
講談社ノベルスをこよなく愛す特ヲタ。

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1.トリプルプレイ助悪郎(2007年刊)   2.名探偵に薔薇を(1998年刊)             3.化物語(2006年刊)          4.時砂の王(2007年刊)                  5.天帝の愛でたまう孤島(2007年)

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