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300冊の積読本もなんのその、本や映画の感想などをつらつらと述べてみたり。

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皆川博子『開かせていただき光栄です -DILATED TO MEET YOU-』

開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU― (ハヤカワ・ミステリワールド)開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU― (ハヤカワ・ミステリワールド)
皆川 博子 佳嶋

早川書房 2011-07-15
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★★★★☆
つまり先生は、僕とナイジェルの才能を愛しているのであって、
才を失ったら、生きていても無価値な者になると

18世紀ロンドン。外科医ダニエルの解剖教室から、あるはずのない屍体が発見された。四肢を切断された少年と顔を潰された男性。増える屍体に戸惑うダニエルと弟子たちに、治安判事は捜査協力を要請する。だが背後には、詩人志望の少年の辿った稀覯本をめぐる恐るべき運命が……。解剖学が先端科学であると同時に偏見にも晒された時代。そんな時代の落とし子たちがときに可笑しくときに哀しい不可能犯罪に挑む。


 18世紀のロンドンを舞台にした本格ミステリ。横書きの登場人物表やキャラが通称で呼ばれるところ、本文中に解剖ソングなる歌の詞が挿入されているなど細かい部分で海外小説っぽさの滲み出る作風でした。
 一般的に小説や映画における昔のイギリスは美化されたもので実際には相当汚かったとはよく聞く話ですが、本作ではそういった点も容赦なく描写され、裕福な者はとことん優雅に、貧しい者は地べたを這いつくばって――といった貧富の差や非公平性が普通のこととしてまかり通る場所、暗さを孕んだ気の置けない街としての雰囲気がしっかりと伝わってきます。かと思えば全体のストーリーと文章は美しさすらをも感じさせ、上品さ漂う表紙装丁と共に読者を惹きつけて止みません。

 時代の最先端を行っていた解剖学が罰当たりなものとして忌み嫌われ、理解を得難かったのは、江戸時代における蘭学の立場とまったく同じですね。どの時代、どこの国でもそう変わらない。読んでいて、築山桂の「緒方洪庵 浪華の事件帳」が頭に浮かびました。

 本格としての質も極めて高いです。鋭い読者がある程度見当つくかつかないかというギリギリのレベルでさり気なくヒントを与え、納得いく事件解決を見せた上で、さらにもう一度まったく同じ発想を用いてサプライズをけし掛ける。人間、一度チェックをすると安心して“可能性”を完全に思考の埒外に置いてしまいます。偽りの解答で先手を打ってその手法を明かしたことにより、真相が完全に盲点と化しているのです。まさかこの後に同一カラクリのどんでん返しが待っているとは誰も思うまい。しかも、ついさっき挙がった手段を再び使われるわけだから、いざ真実を知った際の驚きは倍増しです。
 そこに追い打ちを掛けるが如く、2つの時系列で進行してきた本作の構成がここでようやく実を結ぶ。これにはやられました。参りました。完敗です。

 本格ミステリとしては勿論のこと、エンタメとしても十二分に通じるストーリーとキャラクター性も兼ね備え、今年度本ミス10位圏内は狙える作品でしょう。装丁大賞選考座談会で取り上げられることもほぼ確実。


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はろーすみす

Author:はろーすみす
シリーズものも平気で数年寝かせる積読家。本格ミステリとスター・ウォーズ小説を中心に読み漁り、新刊・話題作はあまり追っていません。

好きなミステリ作家は古野まほろ、はやみねかおる、西尾維新、霧舎巧。
ジャンル外では築山桂と小川一水。
講談社ノベルスをこよなく愛す特ヲタ。

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1.トリプルプレイ助悪郎(2007年刊)   2.名探偵に薔薇を(1998年刊)             3.化物語(2006年刊)          4.時砂の王(2007年刊)                  5.天帝の愛でたまう孤島(2007年)

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