2011.08/26 [Fri]
小川一水『風の邦、星の渚(下) レーズスフェント興亡記』
風の邦、星の渚 下―レーズスフェント興亡記 (角川春樹事務所 ハルキ文庫) 小川 一水 角川春樹事務所 2011-05-15 売り上げランキング : 82560 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
★★★★☆
ルドガーが拓いたレーズスフェントは、開市特権状を得たことで躍進へ大きな一歩を進める。しかし英仏の戦争勃発を契機に、ハンザ同盟との対立が激化。加えて「泉の精霊」レーズの存在が、《北海の梟雄》デンマーク王ヴァルデマール四世の興味を引いてしまう。迫り来るデンマーク軍とレーズスフェントとの全面戦争。果たしてルドガーたちの未来は何処にあるのか? 十四世紀の神聖ローマ帝国辺境で、人知れず果たされたファーストコンタクトから始まった運命の変遷を描く長篇歴史SF。ついに完結!
「風の邦、星の渚」下巻。
誰もが住める街として順調に大きくなっていくレーズスフェントに新たな問題が。出兵免除のために莫大な量の食料品を調達する必要に駆られるルドガーのもとに近海を縄張りとする海賊たちに村の子供たちが攫われたという報が入る。事を治めると次は新航路の開拓に奔走し、その過程でレーズのつがいである生命体・ラルキィに寄生されたデンマーク王に囚われます。辛くも解放されたものの、それがルプレヒトの耳に入り今度は謀反者として扱われ、投獄と拷問の日々に晒される……。
上巻以上にファンタジーらしい展開が待っている下巻は息つく間もないピンチの連続です。最終的にはレーズを求めるラルキィが、一国を率いてひとつの街を滅ぼしにやって来る。街を棄て別の地域に逃げるのか、それとも全面降伏か。或いは正面からぶつかり合うのか。レーズスフェントは最大の岐路に立たされます。
ここでレーズスフェントの人々が下した決断が、上巻で描かれたフォスが攻めてきたときの住民たちの反応との対比になっており、ルドガーの挑んできた街づくりの“答え”にもなっているのだから感慨深い。
最後の方は駆け足に見えないこともありませんが、本作がレーズスフェントの歴史を紐解き、俯瞰した物語だと考えると、むしろこのあっさりとした流しようこそが最高の演出に見えてくるハズ。激動の時代と幾多の危機を乗り越え、レーズスフェントという名の物語は終わることなく続いていきます。
街とは人の営みそのもので、住人ひとりひとりの人生がその街の歴史を形作る。ルドガーの夢、リュシアンの生き様、エルメントルーデの幸福。それらすべてがレーズスフェントと共にあり、そしてバトンは次の世代へと渡されてゆく。
読み終えるのが惜しいくらいに、大満足の上下巻でした。
スポンサーサイト
Comment
Comment_form