2011.08/21 [Sun]
映画『ブレイブ ワン』
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★★★☆☆
もう戻れない。昔の自分にも、あの場所にも――。
エリカ・ベインは、ニューヨークでラジオ番組を担当するパーソナリティ。その番組で流すために、街の喧騒を録音してまわるのが日常だった。プライベートでは婚約者もいて、ささやかな幸福な日々を過ごしていた。しかしその幸福は突然、破られる。ある夜、婚約者と犬の散歩をしていたところ、暴漢によって襲われたのだ。婚約者は帰らぬ人となり、エリカもまた重傷を受ける。大都会の持つ危険な側面を、彼女は自身の肌で知った。肉体的な傷は癒えても、精神が受けたダメージは大きかった。これまで親しみ、世界でも最も安全だと信じていたニューヨークの街並みがまったく違うものに見えてくる彼女は、護身用の銃を携帯するようになる。そしてある日、コンビニエンスストアで殺人現場に出くわした彼女は、その犯人に向けて発砲してしまう。
(2007年 アメリカ)
ちょっと前にBSデジタルで放送があったので視聴。
殺人は癖になる。それは別段、殺しの快楽に浸るだとかそういった意味ではなく、一度経験してしまうとタガが外れやすくなるということなのでしょう。踏み越えてはならないハズの一線をより簡単に跨いでしまう。
善良な一市民が暴漢に襲われたことをきっかけに、見るものすべてが自分を狙っていると思うような疑心暗鬼に囚われ、護身用にと拳銃を手に入れる。再び自分の身に危険が迫ったとき、彼女はそれを使ってしまいます。確かに一度目は仕方がないといえば仕方がない状況でした。しかし、身を護る力を得た彼女の行動は内面の怯えに反して大胆になり、以降は電車内で絡んできた若者連中や女性を車に乗せてムリヤリ連れまわす男、裏で悪事を働く有名企業家を撃ち殺していきます。
とはいえエリカ自身は、街に蔓延る悪人を法の代わりに裁いてやろうという使命感に燃えて行動を起こしているわけではなく、自分たちを襲ったやつらを除けばあくまでも受動的に、必要に迫られての最終手段として殺人に及んでいます。これがいわゆる処刑人もののダークーヒーロー映画とは違う部分です。エリカの中にあるのは常に怯えであり、殺人は自らを“護るため”の手段。それ以上でもそれ以下でもありません。
心に負った傷がエリカは銃という力を得たことによって“護るため”の定義を広げ、本来ならば手を伸ばさない範囲までカバーしようとする。これらの行きすぎた防衛行為も、すべては怖れと「なんとかしなきゃ」という強迫観念にも似た感情に突き動かされた結果なのです。
人を殺す度に戸惑いを覚える彼女は決して倫理観を失っていない。そのハズなのに、気付いてみれば立派な(?)大量殺人者となっている。そして間違いなくこれからも人を殺し続けます。いったいどこで道を踏み誤ってしまったのか? 一被害者から一加害者へと変わるその境はどこだったのか? 恐らく本作を観ても明確にどの場面とは答えられないと思います。その曖昧で危うい境界を彷徨い、堕ちてゆく過程が不自然なく見事に描かれていました。
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