2011.08/16 [Tue]
西尾維新『猫物語(白)』
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★★★★☆
嫌いなものがあるっていうのは、好きなものがあるのと同じくらい大切なことじゃない
――それなのに、あなたは何でもかんでも受け入れちゃうじゃない。
私のこともそうかもしれないし、阿良々木くんのこともそうなのかもしれない、なんて思うんだけど
君がため、産み落とされたバケモノだ。完全無欠の委員長、羽川翼は二学期の初日、一頭の虎に、睨まれた――。それは空しい独白で、届く宛のない告白……。<物語>シリーズは今、予測不能の新章に突入する!
「化物語」第5作。
2nd season の1作目。本作最大の特徴は、語り部が従来の阿良々木くんから事件の当事者である羽川へと替わっていることでしょう。この試みはすごく良い。やはりキャラクターはそれぞれに他人には関知し得ない自分だけの物語を持っていないとね。
ここまで阿良々木くんのフィルターでしか見えなかった世界が羽川視点になることで別のものを映し出し、ひたぎと羽川の絡み、ふたりの関係性が垣間見られたのもこの手法をとった意義でしょう。内容そのものは羽川のごくごく個人的な物語でありながら、彼女の眼を通して戦場ヶ原ひたぎの成長を存分に実感できる話にもなっているのが上手いです。
おまけに最近グダグダ気味な阿良々木くんの語りとは違って、おふざけも控え目で全体に締まっているため、かなり読みやすい。ギャグパートと本編のバランスの悪さが改善されているのも嬉しい副産物でした。
完璧超人、聖人君子と評される羽川翼が抱える重たく昏い事情については『化物語(下)』や前作『猫物語(黒)』でも描かれ、これまではだからこそいまの羽川があると考えていました。でも本当はそんな綺麗事で済まされること自体がおかしくて。あんな気持ちの悪い環境の中にいた人間が、捻くれもせずに誰よりもまっすぐな性格に育っているなんて事態が既に異常だったのです。それこそが羽川翼の闇。『猫物語(白)』は羽川がこの闇の権化である虎の怪異と対峙し、自分の内面と向き合う物語です。
苛虎誕生の決定打となる出来事に関する伏線は豪胆ながら読者にまったく悟らせない絶妙さがあり称賛したいくらいなのですが、一方で同じ部分にややアンフェアに感じる描写があるのがミステリとして判断に困るところ。当該箇所を何度読んでも明らかに引っ掛かる書き方がされています。そこさえちゃんとしていればかなりの秀作に成り得たのに勿体ない。
内容的にはこのくらいシリアスな方が好みというのは勿論のこと、「化物語」は西尾維新の著作の中でも最もシリアス向きな作品だと思っているので容赦なく心の奥底まで抉り抜いて、キャラクターを存分に迷い悩ませてやってほしい。2nd season 、大いに期待しています。
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