2011.08/11 [Thu]
北山猛邦『踊るジョーカー 名探偵音野順の事件簿』
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★★★★☆
ええと……皆さん……これからこの研究室で起きた毒物事件の推理を……
よかったら聞いてもらいたいと思うのですけど……嫌だったら……別にいいので……
類稀な推理力を持つ友人の音野順のため、推理作家の白瀬白夜は仕事場の一角に探偵事務所を開設する。しかし当の音野は放っておくと暗いところへ暗いところへと逃げ込んでしまう、世界一気弱な名探偵だった。依頼人から持ち込まれた事件を解決するため、音野は白瀬に無理矢理引っ張り出され、おそるおそる事件現場に向かう。
「名探偵音野順の事件簿」第1作。
“物理の北山”の異名をとるメフィスト賞作家・北山猛邦の連作短編集で前々から気になっていた小説。
ひきこもりで人見知りのおよそ名探偵の対極にいる最弱探偵・音野順をワトスン役がムリヤリ探偵させる、このやりとりを読んでいるだけでも笑えます。依頼人相手に「こ、この事件は……必ず私が……と、解き明か……して……みせるかもしれません……」だもの。こんなにも三点リーダーと吃音が多い名探偵がかつていたでしょうか? いや、いない(反語)
相方の白瀬も白瀬で普通人のフリして結構ぶっ飛んだりしていて、何これ愉しすぎる。
勿論、それだけでは終わりません。本筋のミステリも優秀です。表題作「踊るジョーカー」は犯行現場にトランプが散らばるみすてりみすてりしたシチュエーションのキャッチーさに加え、さらにその状況に二重の必然性を持たせているところが素晴らしいです。「見えないダイイング・メッセージ」はテーマであるダイイング・メッセージの扱い方が面白く、犯罪における手段と目的の逆転現象が起きているのが興味深い。他にも、まさしくバレンタインデーに相応しい真相の「毒入りバレンタイン・チョコ」事件など、収録作は独創性と発想力に彩られた事件ばかり。なんとも贅沢な作品です。
何より著者の感性が琴線に触れました。「踊るジョーカー」や「時間泥棒」といったキュートでファンシーな章題が、すべての真相が明かされると思わず頷いてしまうような直截的なものへと様変わりする。センス良いなあ。
デビュー作の『『クロック城』殺人事件』あたりから読んでみようかな。
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