2011.07/26 [Tue]
ドラマ総評:『JIN-仁- (完結編)』
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★★★★☆
あれから2年――。南方仁は仁友堂で、佐分利祐輔や福田玄孝らと共に江戸の人々の治療に専念していた。実家を出た橘咲は、公私に渡って仁を支えているが、脚気になった母・栄が心配でならない。野風は横浜で子供たちに手習いを教えているが、花魁だった前身が知られ居づらくなり、仁友堂で働くことになる。そんなある日、龍馬が京都から仁を訪ねてやってきた。仁に佐久間象山の命を救ってほしいというのだ。京都に龍馬と共に向かう仁。そこは薩摩と長州の戦いの場、戦場だった……。全11話。
前作のラストシーンはお馴染みのJホラーエンドで、南方先生が江戸で生きる決意をしたところで物語自体は綺麗に終わっていると私は受け取っていたのですが、次回予告やプロデューサーがテレビ誌その他でタイムスリップの謎は明かされますと散々煽ったせいで「完結していない」と相当物議を醸しました。
その弁明とでも言うかのように、本作最終話ではタイムスリップのカラクリの丹念な解説が入り、不覚にも笑ってしまった。タイムスリップもののSF的な面白さ、どうしようもない逆境の中で主人公が信念をもって障害に立ち向かい、結果周りの人間や敵対していた人までもが絆され、魅了されていくというスポ根精神に溢れたこの作品で、唯一の不満点があるとすればまさにこのタイムスリップの仕組みです。
何らかのきっかけで過去へタイムスリップした、という単純な構造でも充分に満足できたものを、スタッフは何に気を遣ったのかここで筒井康隆の「果てしなき多元宇宙」オチ――並行世界設定を導入してきます。ここがまずかった。何故なら、パラレルワールドに移動したことで作品全体を貫いてきた課題である「歴史の修正力」の存在に疑問符が付いてしまうからです。だって過去が改変されていくのに南方先生が「いた」未来に繋がらなくてはならないという一種のジレンマが「歴史の修正力」のハズで、それが南方先生が並行世界に放り込まれていたとすると、別にそこに繋げる必要はないわけです。
そればかりか、タイムスリップ先の並行世界では幕末の南方仁を込みで初めて歴史が紡がれていくのだからその江戸時代は過去ではなく現在進行形で、「歴史の修正力」が介入してくるのはおかしいのです。同様にして写真や記憶の改変もそう。記録に残っていない程度ならまだしも、記憶の抹消は筋が通りません。パラレルワールドの未来に帰った南方先生が元いた世界の自分と出逢うのも整合性がとれないし(この時点で南方先生の戻った未来は船中九策で作られた未来のハズで、仮にここがパラレルワールドの「現代」だったとしたら南方先生の存在を過去に認めている世界なので術後に記憶操作処理が施されるのはおかしい)、咲さんを治す薬が過去への「入り口」とは異なる「出口」付近に落ちていた理由も説明がつかない。南方先生があの瞬間の「出口」から江戸にやってきていない以上、過去と未来が一時的に繋がったから、は理屈として通用しません。しかも野口説では南方先生はまた別の世界の江戸時代に行ったため、2年前の「出口」付近に瓶を落すことは不可能です。10円玉も謎のままです。
とにもかくにも「歴史の修正力」とパラレルワールドというふたつの便利アイテムが合理的解決を悉く邪魔してきます。最後の最後で完全に破綻をきたしたといって良い。野口先生の推論が間違いだった説も考えようによってはアリです。むしろ「歴史の修正力」が効果を発揮している以上、それは「修正されるべき時間軸」であって、つまるところ南方先生の遡った過去と元いた現代、最後に辿り着いた現代は改変の有無はあれど「同じ世界」であることを意味しています。しかしながらドラマスタッフの捻り出した“正答”が野口説であることも疑いようもない事実です。そこをあれはあくまでも可能性の指摘だから違っていてもオーケー、では逃げです。
激動の時代に翻弄される人々のドラマ、スポ根精神で魅せるドラマとしては非常に面白かったし、日本の作品としては破格のスケールで毎週本当に続きが楽しみでならなかった作品ですがSFとしての粗がどうしても気になってしまい、最後の感動シーンもなんでそうなるの?というもやもやが先行して素直に没入できませんでした。そこはどの記録にも南方先生のことは載っていないけど、龍馬さんとのツーショット写真だけは残っていて「あれ? この人、あなたに似てますね。もしかして……」→南方先生感涙 の流れでしょ!!
時間ものを扱うときはとにかく徹底的に、辻褄合わせに齟齬がないかをチェックしないと。せっかくの感動が台無しとは言わないまでも、個人的に作品全体の評価はどうしても下がってしまいます。
とはいえこういった設定のドラマが作られ、大ヒットを記録したことは安心・安全・無難なドラマばかりが居並ぶ日本の連ドラ業界には良い刺激で、ちょっとリアリティから外れたことをするとすぐに“突拍子もない設定”といって鼻で笑う姿勢を変えさせるキッカケとなった記念碑的傑作であることには違いありません。海外ドラマに馴れ親しんだわれわれには、いままでの連ドラの概念はもう通じないのです。これを機に『ふたつのスピカ』や『ケータイ捜査官7』のような意欲的な設定のドラマがもっともっと作られていくようになると嬉しいです。
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