2011.07/22 [Fri]
古野まほろ『天帝のみぎわなる鳳翔』
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★★★★☆
天帝は私を母親とはしませんでしたが――これだけは解ります。
たとえ親子でも、真実大切なことは言葉にしなければ理解できないと。
あなたは娘さんを救ったというひとつの真実を言葉にすることから逃避している。
そしてあなたのお嬢さんは、自分こそが母親の心身を困窮させたという背徳感から、
父親にその罪を転嫁することで、やはり真実から逃避している。
因果の悪戯か、特殊任務を帯び制式空母『駿河』に乗艦することとなったまほろ。しかし探偵小説の神は彼を容赦しなかった。日本本格史上最大級の3000人殺し……。鉄の巨城に咆哮する悪意! 空前のスケールで描く天帝シリーズ最高傑作、ついに登場。
『天帝』シリーズ 第4作。
ついに古野まほろ最後の砦『天帝のみぎわなる鳳翔』を崩すときがやってきました。舞台が空母というだけでも驚きですが、なんと今回の被害者は3000人! どこの清涼院流水だ、と問わずにはいられません(ちなみに壁本の誹りを欲しいままにしている『コズミック』ですけど私は結構好きです)
それにしてもこの本はすごい。まさに超弩級。乗っ取られたイージス艦によって艦隊は沈められ、まほろたちの乗る『駿河』には核弾頭が撃ち込まれて隔離区域以外の艦内は汚染。これだけ見れば完全に軍事小説です。事実、この際ミステリ部分を措いといてイージス艦『済遠』が叛逆の牙を剥く場面だけでも手に汗握る緊迫感があり、読ませます。
しかしそこは探偵小説。外では死の灰が降るというとんでもない状況の中で第二、第三の殺人が起きてしまいます。しかも、これだけぶっ飛んだ内容にしておきながら本格として成立しているばかりか、核攻撃それ自体が本題である殺人事件の解決においても大きな役割を担ってくる。単にスケールを大きくしたとかそういった話ではなく、極限状態のシチュエーションが探偵小説の観点から見ても存分に生かされているのだから感心です。
主要キャストに華頂宮さま、瀬見仁美沙、居御金之助といった『御矢』生き残り組が名前を連ねるのもシリーズのファンとしては嬉しいところ。『天帝』シリーズ名物の推理合戦における美沙さんのおどれモードは今回も健在で、居御の相変わらずなぼんくら推理と併せて笑わせてくれます。美沙さんのレギュラー昇格は真剣に検討しても良いと思う。コメディ的な面で。
幕間に入る謎の人物たちの会話の意味もようやく理解できるようになってきました。つまりこのセカイでは、月かどこかから“天帝”とその取り巻きたちが地球圏と人々を観察していて、彼らは絶大なる力を秘めた7つの祭具を利用して地上を跋扈するヒトどもから地球の支配権を取り戻すことが最終的な目的っぽいですね。なんて壮大なw
実予であかねんたちと出逢って揺らぎつつあるコモも含め、これからの『天帝』シリーズがどういった展開を経て、どこに着地するのかも楽しみです。
次作は年内に『天帝のあまかける墓姫』が刊行予定とのことですが、ここまでくると飛行船みたいな生易しいものではなく、彗星とか宇宙を舞台にした殺人事件なんかを本気でやりそうだから怖い。こんな規模の本格ミステリを平然と書いてしまえる作家は本当に古野まほろだけです。
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