2011.07/13 [Wed]
望月守宮『無貌伝 ~双児の子ら~』
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★★★☆☆
人間は基本的に、顔で人を区別しますよね。
無貌が奪うのは、そうした部分も含めた『顔』、つまり『その人をその人たらしめている何か』なんです。
人と“ヒトデナシ”と呼ばれる怪異が共存していた世界――。名探偵・秋津は、怪盗・無貌によって「顔」を奪われ、失意の日々を送っていた。しかし彼のもとに、親に捨てられた孤高の少年・望が突然あらわれ、隠し持った銃を突きつける! そんな二人の前に、無貌から次の犯行予告が!! 狙われたのは鉄道王一族の一人娘、榎木芹――。次々とまき起こる怪異と連続殺人事件!“ヒトデナシ”に翻弄される望たちが目にした真実とは。
「無貌伝」第1作。第40回メフィスト賞受賞作。
雑誌に掲載されている望月さんのエッセイは何本か読んだことがあって、前々から興味は惹かれていたのですが積読の山からようやく切り崩せました。
昭和初期のレトロな雰囲気が薫る異世界を舞台にしたミステリです。美しい目や耳といった人間のパーツを収集するいくつもの顔を持つ怪盗・無貌、それを追う三探偵と呼ばれ新聞紙面を賑わす私立探偵たち、探偵のことを「先生」と呼ぶ少年助手といったキャラクターの配置は江戸川乱歩の「少年探偵」シリーズのようで懐かしさを誘い、にやりとしてしまいます。
本作最大の特徴は作者の創造したヒトデナシのギミック。“○○と○○のヒトデナシ”といった具合に現実世界のふたつの事象に影響を受けたヒトデナシ(妖怪みたいなもの)が存在する中、いかにしてミステリで魅せるのかがポイントになってくるのですが、本作を読む限りでは犯行や推理面においてその特殊設定を上手に生かしていたとは言い難いです。特に親族会の場に闖入してきた謎の影の正体は作品全体のひとつの核となる謎であるにも関わらず、わざわざ論じる必要があったのかというくらい明瞭です。
加えて、影の正体を特定するのに最も重要なカギとなる場面でアンフェアだと感じる描写がありました。ただし、これは著者のスタンスによってどう捉えるのかが変わってくるので一概に否定はできないのですけれど、個人的にはアウト。
――と、まあ。ミステリとしては目を見張るほど完成度が高いわけではありません。
しかしながらこの作品、リーダビリティは相当高いです。独自の世界観が作品内にしっかりと構築されており、何よりも読んでいて先が気になる。探偵サイドと無貌サイドそれぞれにパーティーがあって、物語を通してそこに新たなキャラクターが加わることで両者のパワーバランスが変化していく。「無貌伝」とシリーズ名にあるように壮大なサーガものとしての面白みに溢れています。
これは続きも読むこと決定。
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