2011.07/02 [Sat]
築山桂『遠き祈り 左近 浪華の事件帳』
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★★★☆☆
ほう、優しゅうなったな、お嬢ちゃん。
ほんの少し前には文句ばっかり言うとったのに宗旨替えか
大坂の町と民を千年以上陰で密かに守り続けてきた“在天別流”。その一族の男装の美剣士・東儀左近は、人形芝居の一座が斬殺される事件に関わった事から、幕閣の陰謀に巻き込まれていく。2009年にNHKで放送された、土曜時代劇「緒方洪庵事件帳 浪花の華」の原作となった「緒方洪庵 浪華の事件帳」、この物語の舞台はその二年前に遡る。
「左近 浪華の事件帳」第1作。
左近殿カムバック!! 『浪花の華』ファンとしてはもうそれだけで大満足です。『北前船始末』で2巻目にして早くも完結を迎えてしまった「緒方洪庵 浪華の事件帳」が左近殿主役のスピンオフという形で復活を果たしました。
左近殿がまだまだ甘々の未熟者だったり、弓月王が左近のことをどう思っているのかなどが掘り下げられているのがポイント。左近殿が窮地に陥ったことを知った弓月がその仕打ちはさすがにやりすぎでは、と軽く引いてしまうくらいブチ切れるとか「緒方洪庵 浪華の事件」ではまず考えられなかったシチュエーションも出てきます。さすがは左近殿のスピンオフ。
過去編になるので章が登場しないのが残念ですが、そのぶん今回はサービス満載。天游先生のカメオ出演(?)に加え、「寺子屋若草物語」でお涼と同窓だった大塩平八郎も史実どおり大物になってがっつり絡んできます。しかも隠れキリシタンにまつわる事件ということで200年前の『浪華疾風伝 あかね 弐 夢のあと』のエピソードにもそれとなく触れられているという手の込みよう。築山桂流のブリッジノベルとでもいうべき作品でしょう。
そこでどうしても気になってくるのが十一屋の弟子筋で大坂の名医でもある橋本曇斎の存在。実は『星ぐるい』の宗さんこと橋本宗介のモデルとなった人物がこの橋本曇斎=橋本宗吉であり、当然のように経歴が丸被りなわけですよ。さあ、この作品における橋本曇斎が果たして宗さんなのか、それとも別人なのか。いままで築山作品は1本の時間軸の上に成り立っているものだと思っていただけにこれは難しい問題です。いちばん理想的なのはこの世界観では宗さんが橋本曇斎になりました、ってルートなのですが、そうじゃないとパラレルになってしまいます。それだけは避けたい!
――と、築山さんも時代小説にそこまでSFちっくな解釈を導入されるとは微塵も思っていなかっただろうけれど、細かいところが気になってしまうのが特ヲタの悪い癖なのです。
本作で描かれた隠れキリシタンと踏み絵の関係についての発想の転換は、斬新かつ盲点で興味深いです。意外と有り得たかもしれません。西尾維新『偽物語』の影響で「踏み絵の時期を気にしたのはご婦人方のチラリズムを期待してたからでしょ?」なんて途中まで本気で考えていた自分が情けないですね。くっ、八九寺め!
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