2011.06/29 [Wed]
高田崇史『毒草師 QED Another Story』
![]() | 毒草師 QED Another Story (講談社ノベルス) 高田 崇史 講談社 2008-04-08 売り上げランキング : 533846 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
★★★☆☆
苦い薬を飲んで、みんな大人になっていくんだよ
鬼田山家の先々代当主・俊春が撲殺した、一つ目の子山羊。以来、この家では「一つ目の鬼を見た」と言い残し、内側から鍵をかけて離れに閉じ篭る人間が相次ぐ。そして誰もが、そこから忽然と姿を消してしまうのだ。密室からの失踪事件として警察が動き始めたある夜、鬼田山家の長男・柊也が、自室で何者かに毒殺される。しかも、その場にはダイイング・メッセージが残されていた。捜査が暗礁に乗り上げた時、関係者全員の前に、突然、御名形史紋という“毒草師”を名乗る男が現れた。彼は一連の事件を『伊勢物語』になぞらえ、事件はほぼ100%解決したと言い放つが……。
「毒草師」第1作。
「QED」の登場人物、御名形史紋が主役のスピンオフです。現代で起きる殺人事件に絡めて歴史の謎を解き明かすという構成は「QED」と基本的に一緒です。ただし本家シリーズが膨大すぎる蘊蓄量で胃もたれを起こし掛けるのに対して、こちらは現代の事件と歴史ネタの配分がちょうど良く、非常に読みやすい。「QED」は巻数を増していくにつれて奈々が歴史に精通していって高度なレベルでの会話が普通に成立しているのに対して、本作では取り立てて歴史に明るくはない雑誌編集者の西田君が語り部。ある意味で知識量のリセットが行われているというか、高田崇史初心者に向けて書かれているように思います。
事件の要となる謎はそれなりの伏線があるとはいえミステリとしては飛び道具的なもの。一つ目の鬼についても拍子抜けするくらいなあっさりとした解答が用意されています。旧家にまつわるどろどろの人間模様としては楽しめますが。
しかしメインの『伊勢物語』についての語りは大満足。作中で披露される「鬼一口」と“よみ人知らず”の謎解きは感嘆するほどロジカルで理に適っています。わが人生でもっとも衝撃を受けたミステリである『QED 式の密室』と根幹を同じくした発想から導き出される“ある可能性”は、一度聞いたらそれ以外考えられないというくらい尤もな仮説なのです。
今回取り上げられている史料は『伊勢物語』にしろ『古今和歌集』にしろ、ある程度の事前知識を持っているものばかりで、特に「鬼一口」の話は高校時代に古典の授業で習ったことのある内容でもあっただけにこの解釈には度肝を抜かれました。
意外と隣人想いで情に篤い御名形史紋といったキャラクター面でも新しい発見があり、およそ数年振りに読んだ「QED」でしたがやはり面白い。歴史好きというよりは古典好きな人向けかな。
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