2011.06/16 [Thu]
映画『インセプション』
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★★★☆☆
彼女は心の奥に鍵を掛けた。そして――真実を忘れることを選んだ。
ドム・コブは人がいちばん無防備になる夢の中にいる状態のときに、その潜在意識の奥底に潜り込み、他人のアイデアを盗み出すという犯罪のスペシャリストである。危険極まりないこの分野で最高の技術を持つコブは、陰謀渦巻く企業スパイの世界で引っ張りだこの存在だった。しかしそのために、コブは最愛のものを失い、国際指名手配犯となっていた。そんな彼に、幸せな人生を取り戻せるかもしれない絶好のチャンスが訪れる。そのミッションは、インセプションと呼ばれるものだった。それは彼の得意とするアイデアを盗むミッションではなく、他人の潜在意識に別の考えを植え付けるという難度の高いミッションで、ほぼ不可能だと言われていた。それでもコブは、それを最後の仕事と決め、業界トップの類まれな才能をフルに活用し、万全の準備をしてミッションに挑む。しかし、予測していなかった展開が彼を襲う。 (2010年 アメリカ)
昨年度の話題作『インセプション』を借りてきました。テーマが夢と精神世界ということもあって、否が応にも同じくレオナルド・ディカプリオ主演の『シャッター アイランド』を思い起こさせます。+かの有名作『マトリックス』といった印象かな。
夢=深層心理に潜り込むという設定にしたことにより、本来は表層化しないものである心の傷と向き合い、乗り越える様をヴィジュアルとして直接的に観客に示してみせる手法はわかりやすい反面、少しずるく感じないこともないです。だって心の機微や心情の変化なんてものは物語の進んでいく過程で自然にそうなっていたことを観ている側が勝手に汲み取るもので、わざわざ“奥さんに惑わされなければクリア”といったふうな達成目標を設定するようなものでもないと思うのです。
もっとも本作の場合はそこで行われる対話こそが作品の本質なわけだから一概に否定はできないわけですが。それも含めて、夢の中ではエレベーターの止まる階層によって目の前に広がる風景(=記憶)が変わったり、夢にはいくつもの層があり深く潜るほどに自己の精神の核心部分に迫っていくというような演出などSFというよりは純文学のフィールドに近いです。SFアクションとしての味付けを施したエンタメ色の強い純文学。
一種の洗脳行為であるインセプションが、見方によっては書き換えられた側の人間にとっての救済になっているといった図式にも文学的な美しさがあります。
――と、ここまでは良かったのですけど問題はラストです。
いや、この設定だからやるんじゃないかと最初から覚悟はしていました。そしてできることなら外れてくれ、と。でも、そんな願いも空しく予想どおり見事にやっちゃってくれるんですね、これが。本当に何もわかっていない。
今作に限ってはオープンエンドはやるべきじゃないでしょ! 何でもかんでもオープンエンドにすれば含みを持たせられると思ったら大間違い。十中八九綺麗な結末を迎えられたのだろうことはわかります。しかし映像上できちんとした答えを見せずに観客に解釈を委ねたせいで、コブの決心と一連の物語すべてを“意味のないもの”として貶める可能性を孕んでしまったことに気付いた方が良い。その可能性が微塵でも出てしまった時点で私の中でこの作品の評価は大きく下がりました。
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