2011.06/14 [Tue]
西尾維新『傷物語』
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★★★★☆
阿良々木くんひとりを助けるためだったら、身体なんて、ひとつあったら十分だよ
彼女がいなければ、“化物”を知ることはなかった。全ての始まりは終業式の夜。美しき吸血鬼キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの出逢いから――。高校生・阿良々木暦は、ある日、血が凍るほど美しい金髪の吸血鬼と出遭ってしまった……!?
「化物語」第2作。
前作『化物語』の前日譚にあたる第零話「こよみヴァンプ」を所収。結局明かされず終いだった阿良々木くんの“地獄のような春休み”。阿良々木くんが吸血鬼くずれになった訳、忍の来歴が明かされます。
「戯言シリーズ」の例を挙げるまでもなく、西尾維新という作家は思わせぶりな設定、頭の中に出来上がっている世界観をすべて小説内で描いてみせようとはしない人で、それ故にどうしても中途半端に感じてしまう。本作も『化物語』を上梓した時点ではまったく語ろうとは思っていなかった物語でしょう。それがアニメ化が決定したので続きを書いちゃう?的なノリでこうして活字になるのだから、良し悪しです。そうして出来上がったシャフト×新房×西尾維新のアニメ『化物語』は大ヒットを飛ばし、西尾維新の知名度も爆発的に上昇することになるのですが、それはまた別のお話。
「こよみヴァンプ」のタイトルだけあって阿良々木くんのキャラクターがよく出ている1冊でした。相変わらずのヒーローっぷりには惚れ、こんなに変態だったのかと多少引いたりして。いままで進行役に徹していた阿良々木暦を正真正銘の主役に取り上げたことで、その人となりがよりわかる。
ただ、本作は羽川がメインヒロインの正統派ボーイ・ミーツ・ガールになっているにも関わらず、この出来事の後でひたぎを選んでしまう阿良々木くんは相当残酷です。リアル。
シリーズの目玉となっている掛け合いはボケ要員がいないため大人しめ。あまりやられても無駄に冗長になるだけだし、キャラのやりとりよりも物語そのものを読みたい派なので個人的にはこのくらいが良い。キスショットは魅力的ですけどね。年寄り風な言葉遣いの女子には萌える。
ミステリ的なことでいえば本編中に大きなひっくり返しが2回仕掛けられており、1度目はむしろ気付かない方がおかしいくらいですが、2つ目は構図の逆転と共に隠されていた真意が明らかにされ、その優しい想いがハッピーエンドでありバッドエンドでもある静かで儚い結末を引き立てる。
『化物語』のエピソ-ド0でありながら独立した物語としてもしっかり成立していて、本作だけを読んでも大丈夫。前作『化物語』は確かに傑作だけど、もし西尾維新を知らない人に薦めるのならこちらでしょう。エロ要素がラッキースケベ程度に収まらず肉欲的にすぎるところが気にならなくもないですが……。
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