2011.06/03 [Fri]
小川一水『時砂の王』
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★★★★★
西暦248年、不気味な物の怪に襲われた耶馬台国の女王・卑弥呼を救った“使いの王”は、彼女の想像を絶する物語を語る。2300年後の未来において、謎の増殖型戦闘機械群により地球は壊滅、さらに人類の完全殱滅を狙う機械群を追って、彼ら人型人工知性体たちは絶望的な時間遡行戦を開始した。そして3世紀の耶馬台国こそが、全人類史の存亡を懸けた最終防衛線であると――。
邪馬台国が出てくるだけでも相当魅力的なのに、そこに時間遡行技術を持った異星からの侵略者とそれを追う未来からの使者との飽くなき戦争までぶち込んでしまった異種格闘技戦のような小説です。まだまだ文化的に未発達な弥生人たちが超ハイテクな宇宙人と戦うシチュエーションが胸熱。
邪馬台国パートでは機械でできた侵略者(=ET)は人々に物の怪として認知されており、そのため地の文でも「卯」や「猿猴」といった表記(形態によって名称が区別される)に徹底しているなど、雰囲気からして創り込まれています。
しかもそれだけ壮大な世界を描いておいてページ数はたったの250。めちゃくちゃ薄いです。にも関わらず、きちんと作品としてまとめ上げられている。基本的にいたちごっこの時間戦争においては、究極的な解決方法は完全殲滅か相互和解の他にありえないのですが、一応のところ綺麗に締めるところまで持っていっていました。
つくづく思うのだけれど小川一水ってロマンチストですよね。今作のラストシーンは特にあぁ、となる。
タイムパラドックスの部分では単に未来に繋がる時間軸が消えたから遡行してきた自分も消えるという仕組みではなく、過去の時間軸への干渉度合によっては割合論的に“存在”を確立できるというのが面白い発想です。『仮面ライダー電王』なんかに近いかな。あちらはファンタジー色が色濃いですが。
過去に向かうほどに無数に拡がっていく可能性の時間枝をすべて見捨ててでも何とか一本、人類が生き残る未来を残すという使命も壮絶です。戦況が不利になり勝てる見込みがなくなる度、それぞれの時代で親しくなった人間を見限ってより可能性の残る過去へ飛ばなくてはならない。そして過去が変われば本来繋がるハズだった時間軸も消滅する。壮絶すぎる運命を背負ってメッセンジャーたちは戦い続ける。すぐに治る身体の傷とは対照的に心は深く抉られていくばかり。その暗く辛い背景があるからオーヴィルの想いにより感じ入る。
邪馬台国女王・卑弥呼=彌与の精神的な強さ、気高さと年相応に見せる乙女な部分のギャップも良い。
この作品の場合、読んでいて沸いてくるひとりひとりのキャラクターへの愛着がそのまま時間軸の象徴としてメタ的な意味合いを持ってくるので、各時代の登場人物が短い出番ながらにキャラ立ちしていることは実はかなり重要なのです。時間軸を守れないということはすなわち、キャラクターの存在が根底から抹消されること。だからこそ重たい。そこらへんはさすがの小川一水。どのキャラもきちんと息づいて、生きています。
遠い彼の地に想いを馳せながら、いつまでもこの世界観に浸っていたいと思わせてくれる傑作でした。
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