2011.05/25 [Wed]
築山桂『星ぐるい 天文御用十一屋』
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★★★☆☆
――おれは十一屋を守るためなら、お前を殺す
公儀天文方御用を命じられた大坂の大店質屋で、天文学の研究に精進する宗介。彼のもとに遊郭の奥座敷で蘭方の妙な星占いをする女を調べて欲しい、と同心が訪ねてきた。宗介が店の用心棒・小次郎と調査を始めると、件の占い師の簪で喉を刺された新造が、死体で発見される。二人は真相に迫るが、背後に巨悪の陰謀が浮かび上がった。
「天文御用十一屋」第1作。
左近殿の新刊の前に未読だったこちらから。既読の築山作品での時系列的には「寺子屋若草物語」の前にあたります。
大坂の蘭学者――それも天文学者に目を向けた小説で、当時の天体観測技術の進度がわかる点が興味深いです。黒点の正体について論じられたり、太陽を直接観察するための器具の製作に奔走したり、江戸の天文学はそんなところまで進んでいたのか!と驚かされました。
陰陽寮以来連なる土御門家や幕府の天文方を差し置いて一介の商人が日本一の天文学者として名を馳せたのには、大坂という町の気質が大きく関係している。これまで築山桂の著作でさんざん大坂の町について語られてきたのでその理屈もごく自然に受け入れられます。
遊女殺しそのものはそこまで複雑な筋ではないので事件的求引力には乏しいのですが、むしろ背景にある“闇”の部分とそれに掛かるキャラクターの生い立ち、十一屋の宗さんと幕府の密偵・小次郎の敵かな?味方かな?どうするの?な絶妙な関係性で楽しませてくれます。ちょっと腐女子の方々にウケそうだなあ、なんて余計にことを考えてしまったり。
築山作品は登場人物が本当に魅力的。中でも小次郎に想いを寄せているふうなお凛が愛らしさ全開で登場シーンが少ないにも関わらず、殆どすべてを持って行ったといっても過言ではないです。舞台となる時代が時代とはいえ、恋する女の子の純情を描かせたら築山桂の右に出る者はいないと思います。
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