2011.05/24 [Tue]
古野まほろ『命に三つの鐘が鳴る Wの悲劇 '75』
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★★★★☆
殺人はヒトの過去も未来も……思い出も夢も全て隷属させる、最悪の奴隷主義です。
もし日本革命なるものが家畜や奴隷を前提とするなら、
そしてそうでなければ成就しない夢だというのなら、僕は闘います。
左翼活動に国民の共感が集まり、政府の外交政策に批判が高まっていた騒然とした時代、1975年。二条実房警部補は、若きキャリア警察官。交番勤務を経て、埼玉中央署特別高等課第一係に配属された。父親も刑事だったが、彼自身は学生時代には左翼革命組織・東京帝大革学労に所属していた。暴力革命を嫌い、恋人を組織のリーダーとなった親友に奪われ、組織を離れ、警察官採用試験を受けたという複雑な過去を持つ。そんな二条警部補のもとに、かつての友人・我妻雄人が出頭してくる。彼は恋人の佐々木和歌子を殺した、というのだ……。 取調室の中の攻防が事件の驚くべき真実を徐々に明らかにしていく。
古野まほろの最新刊は光文社から出ている一般層向け小説、「悲劇」シリーズ(?)です。探偵役が『群衆リドル』のイエ先輩こと八重洲家康から「天帝」シリーズでお馴染みの二条さんに代わり、シリーズと呼んで良いのかはわかりませんけど、少なくとも表紙デザインは前作を踏襲しています。世界観は一緒だしね。
はじめ、今度のまほたんは警察小説だと聞いたときはかなり意外に思いました。探偵小説的趣向大好きの古野まほろの作風からは掛け離れたテーマのように感じたからです。が、蓋を開けて見れば新人刑事・二条実房を主役とした警察小説にきちんとなっているばかりか、古野まほろの最大の特徴である 論理!論理!論理!な作風も健在。見事に融合しています。
犯人を取り調べて供述調書を作成→ダメ出し→再聴収 を繰り返す手法はかなり新鮮で、これが非常に探偵小説的なのです。二条さんが自白を基に尤もらしい推理を組立て(=調書)、それを仲間の元に持ち帰って論破(=ダメ出し)される。しかもこのダメ出しが極めてロジカル。これぞ古野まほろ!と喝采を送りたくなるほどです。
これまで動機論を「どうにでもなる」と片付け、あくまでも感情を排した緻密な論理構築で魅せることに力を置いてきた著者が初めてホワイダニットを主題にしたところも注目すべきポイントです。
そして驚くべきことに本作では、提示されたデータと張り巡らせた伏線から論理的推理のみによって動機を特定するという所業をやってのけます。犯行動機(=感情)という心の内面の問題を、証拠や証言といったパーツを組み合わせ、あらゆる可能性を潰していくことで外部から唯一無二の答えを導き出す。いや、ここがすごい。こんなミステリは読んだことがない。
言葉の遣い方、選び方も相変わらず美しいのですが、大人の事情と語り部が二条さんのせいか、いわゆるまほろ語は「うげら」のひと言のみ。なんというか文章にぶっ飛び具合が足りないよね? 抜かれてわかる毒気の懐かしさ。
そこらへんは年内刊行がアナウンスされている『天帝のあまかける墓姫』、文庫版の『新訳 果実』『新訳 御矢』の3冊に期待しておきましょう。残り半年で3作も出るなんて夢のよう。
来月中には未読の『天帝のみぎわなる鳳翔』も読んでおこう、シリーズの復刊に備えて。
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