2011.05/13 [Fri]
アントニイ・バークリー『ジャンピング・ジェニイ』
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★★★★☆
しかし、くそっ、あれは殺されて当然の女だぞ。
殺人者をかばうのが許されない行為なのは、理屈の上ではわかってるさ。だがこの事件は例外だ。
屋上の絞首台に吊された藁製の縛り首の女――小説家ストラットン主催の“殺人者と犠牲者”パーティの悪趣味な余興だ。ロジャー・シェリンガムは、有名な殺人者に仮装した招待客のなかの嫌われもの、主催者の義妹イーナに注目する。そして宴が終わる頃、絞首台には人形の代わりに、本物の死体が吊されていた。探偵シェリンガムの捜査の行方は?
「ロジャー・シェリンガム」シリーズ 第9作。
探偵小説黄金期に独自路線の実験的な意欲作を次々と発表した作家、アントニイ・バークリーに初チャレンジです。シェリンガムものは一応全作邦訳されていますが、創元推理文庫に順番は問わず着々と収録されていくようなので、私にしては珍しくシリーズの途中の作品からですけど読んでみました。
普通のミステリの場合、殺人事件が起こると居合わせた探偵が犯人を特定するために事件の謎を解く、というのが自然な流れです。しかしこの作品はひと味違います。
殺されたのは人類社会の表層にできた吹き出物のような最悪の女、名探偵をして「こんな善行を施した人物は守られてしかるべきだ」とまで言わしめます。そこでシェリンガムが何をするかというと、事件が他殺であることにいち早く気付いた彼は他殺の決定打となる犯人のミスを内密に処理してしまうのです。しかも、そのことをさり気なく友人に仄めかすと、殆ど完璧ともいえる推理を組み立てられ、シェリンガム=真犯人だと疑われてしまう始末。幸いにも黙っていてくれると申し出ては貰えたものの依然として“疑惑”は晴れない。シェリンガムは自分の無実を証明し、その上で“善人”の犯罪を完全に隠蔽するために犯人探しに繰り出す。
警察に突き出すのでなく、庇う為に犯人を突き止めるという通常とはまったく真逆の構図でミステリしているのが面白いです。
また、この時点でもかなりのトンデモ探偵小説なのに、後半になるにつれてシェリンガムの暗躍はさらにヒートアップ。警察の質問に対する口裏合わせに奔走し、偽の証拠の捏造までやってのける姿はもはや犯人そのもの。これはひどい。
倒叙形式なので読者はシェリンガムの推理過程を楽しめるばかりか推理ミスには笑え、それでいて警察や審問官に“嘘”がバレはしないかというスリルまでもをひとつの作品の中に共存させています。ひと粒で3倍楽しめるお得仕様。
×××××もあって侮れません。
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