2011.05/05 [Thu]
太田忠司『幻竜苑事件』
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★★★☆☆
自分が悪かったって言って、それで引っ込んじゃっていいの?
自分の本当の気持ちを相手にわかってもらわなくていいの?
そんなんじゃ、お互いのしこりが残ったままになるじゃないの。
時は3月。探偵志願の少年・狩野俊介の再訪を待つ野上の事務所に、謎の少女が現われ、両親を殺した犯人を捕まえてくれと依頼した。不審な大金を携える少女の無礼な態度に腹を立て、冷たく追い返したものの、野上は少女のことが気にかかっていた。彼女の残した落書きを手がかりに俊介と調査を始めたところ、10年前に起きた焼死事件が浮上する。〈竜の棲む池〉で起きた惨事の真相とは。
「少年探偵・狩野俊介」第2作。
『月光亭事件』に続いて第2作も館もの。大掛かりなトリックでインパクト重視だった前作に比べ、今回は地味めな事件。どちらかというと事件そのものよりも、事件を通して描かれるキャラクター心理に比重が割かれた作風です。
本格的に探偵助手として俊介を迎え入れようと考える野上さん。俊介少年を引き取るに際し、当然の成り行きとして養子縁組の話を持ち掛けるが俊介は申し出を断り、雨の中探偵事務所を飛び出してしまう。俊介の心情が理解できず悩む野上さんは、10年前の事件で幻竜苑の所有権を継いだ遠島寺美樹が正式に叔父夫婦の娘となることを拒んでいると知り、その姿を自分と俊介の現状に重ね、苦悩する。
ミステリとしての軸は幻竜苑事件の謎解きにあるものの、野上さんと俊介少年のすれ違いと焦燥こそが本作の主題といって良いでしょう。相手を気遣いすぎてすれ違う、うじうじぎこちない男ふたりをアキちゃんが思い切の良さで仲裁する場面は読んでいて爽快です。
そんな気風の良いアキちゃんもまた、見えないところでは色々と思い悩んでいたりして。良いなぁ、こういうの。
意外だったのが解決編において、踏み外してしまった犯人に対し俊介が感情を爆発させたところ。私の中では既に物わかりの良い礼儀正しい少年というイメージがある程度出来上がっていて、創元文庫版の竹岡イラストも俊介少年の純真さを際立たたせるのに一役買っていただけに、その告白には驚かされました。それを受けて犯人が返す言葉も印象的。この生々しさがシリーズのひとつの特徴かもしれません。
個人的には『月光亭事件』よりもこちらの方が好み。ここに来て「狩野俊介」、かなり気に入ってきました。
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