2011.04/22 [Fri]
全民煕『ルーンの子供たち 冬の剣(2)』
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★★★★☆
あなたの世界は同じ年頃の少年や少女のものとはまるで違います。
まして、華麗で、美しく、あこがれるような世界ではありません。
ただ冷たく、楽しくもなく、近寄ることすら困難な荒れ果てた外国なのです。
伝説の武具を巡る戦いで天涯孤独となってしまったジンネマン家の次男ボリス。そんなボリスを匿ったのは、アノマラードの有力貴族ベルノア伯爵だった。だがそれには、ある条件があった。来年の春に行われる剣の試合に勝ち、ベルノア伯爵の一人娘ロズニスの結婚を阻止するというものだ。試合までの間、剣の師となったのは、不思議な力をもつウォルナット。師の破天荒な教えは、ボリスの凍った心を少しずつ溶かしていくが、伝説の剣は、ボリスを裏切りに満ちた世界へと導いて――。
「ルーンの子供たち 冬の剣」第2作。
鬱。半端なく鬱。ロズニスのイラストが可愛らしい表紙とはうらはらに、読者と主人公が完膚なきまでに絶望のどん底に叩き落とされる第2巻。ボリスの不幸さといったら世界名作劇場で主役を張れるんじゃないかというくらい。
このままベルノア家の養子として幸せに暮らすのも展開としてはアリなんじゃないかと思っていた矢先にこれですよ。もはや少しでも甘い夢を見たのが愚かだったと、そうとでも思わないとやっていけないレベル。人間不信に陥るなという方が無理な話です。
しかも何が非道いかってベルノア伯爵の城でボリスは信頼できる師匠と出逢い、数ヶ月を過ごす中で義妹のロズニスや下僕のランジエにも好意を抱き始めていました。常に「ここにいるべき人間ではない」と意識はしていたものの、それでも辿り着いたそこは追われる身のボリスにとって、自分で考えている以上に心落ち着ける場所で、やっと得た平穏の地だったんです。
決して以前のように明朗な姿を見せることはないけれど、一度は人を信じられなくなったボリスがある程度まで持ち直していたことは確か。それが、こんな……。
人間が「人間」である共和国制を作るためならば命を落とすことも厭わないと言うランジエと、人は死んでしまえばそれで終わり、人間が「人間」がとして生きられる世の中を実現させる礎として死ぬことには何も意味がないと主張するボリス。大陸を取り巻く政治形態に関する議論と、死生観の相違をぶつけ合う様も本巻の見どころ読みどころです。
なお、ここでフェードアウトさせるには余りにも惜しいキャラのランジエは、「冬の剣」のみならず第二部「DEMONIC」にも登場する模様。
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