2011.04/18 [Mon]
築山桂『北前船始末 緒方洪庵 浪華の事件帳』
![]() | 北前船始末―緒方洪庵浪華の事件帳 (双葉文庫) 築山 桂 双葉社 2009-01-14 売り上げランキング : 585617 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
★★★★☆
言っただろう。それが勤めなんだ。
お前だって、私が頼んだからといって、江戸行きを諦めたりはしないだろう。それと同じだ。
蘭学塾・思々斎塾で医学を学ぶ日々を送る緒方章(後の洪庵)は、北前船の隠し荷をめぐる争いに巻き込まれる。船頭に連れられて大坂にやって来た謎の少女。その身に隠された秘密とは? 武士や役人、逞しく生きる大坂の町人、商人たちを相手に、緒方章と男装の麗人・左近が難事件に挑む。そして章と左近の淡い恋の行方は!?
「緒方洪庵 浪華の事件帳」第2作。
左近殿主役の新刊が出る前に予習。いや、復習?
ドラマでも前後編で大きく扱われた「北前船始末」は原作の方があっさりとした内容。思えば『浪花の華』を初めて見たのがこの「北前船始末(前編)」でした。流行病の痘瘡と、それを防ぎ何千何万の人をも救うことのできる可能性を持ったワクチンにまつわる事件を描いた話に、こんな切り口の時代劇があるのかと衝撃を受けたものです。何よりもまず江戸時代の時点でウイルスやワクチン接種といった概念があることに驚かされました。
もともと『アウトブレイク』や『24-TWENTY FOUR-』Season 3、『相棒』Season 7「レベル4」などウイルスパニックを題材にした作品はかなり好きなんです。
原作ではおゆきを抱えての派手派手しい逃走劇こそありませんが、何気ない描写から無知な読者をミスリードに誘う手腕はなかなかのもの。この出来事が後の緒方洪庵の天然痘治療貢献への布石となり、章の感じた無力さが江戸に“行かなくてはならない”想いをより強くするといった話運びも上手い。
左近殿のことは好きだけど、自分は為せねばならないことがある。それは譲れない。左近も左近でいまできる精一杯のセリフで章の決心を惑わせてみたいとは思っても、それが邪魔になるとわかっているから肝心なことは言えない。なんてもどかしくて、はがゆい関係なんだろう。極上すぎる恋愛小説でした。
イメージソングは田村ゆかり「つぼみのままで」
一応、これにてシリーズ完結になるのかな。淋し。
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