2011.04/06 [Wed]
マルセル・F・ラントーム『騙し絵』
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★★★☆☆
残念でした。あなたに直接会ってみたかっただけ。
そうすればあなたになんか関心ないってことを、直接言ってやれるでしょ
幾度も盗難の危機を乗り越えてきたプイヤンジュ家のダイヤモンド“ケープタウンの星”。銀行の金庫で保管されていた253カラットのダイヤが、令嬢結婚の日に公開されると、6人の警官たちの厳重な監視にもかかわらず、偽物にすり替えられてしまった! 誰が、いったいどうやってこの犯罪を成し遂げたのか。
「ボブ・スローマン」シリーズ 第2作。
第二次世界大戦中の捕虜収容所で執筆された小説で、著者は探偵ボブ・スローマンを主人公にした本格ミステリ3編だけ書き上げて筆を折った“幻の作家”とのこと。
無一文だった初代プイヤンジュがひょんなことから大粒のダイヤモンドを手に入れ、それを担保に一代で財を成していく過程から入る壮大さはさながら冒険小説。そこから、空間を折りたたむワープ装置を造ろうという発明家が世間を騒がせ、ダイヤを相続するプイヤンジュ家のお転婆娘・アリーヌのロマンスもあって、時代掛かった物語が「シャーロック・ホームズ」を思わせます。
探偵と語り部が没個性というよりもキャラクターとしての存在を主張しなさすぎる反面、事件の関係者たちはしっかりと生きた人間として魅力的に描かれていたのは好印象。エピローグで明かされる彼らのその後が何気に嬉しかったり。
本作はカテゴライズ的には密室ものにあたるのですが、衆人環視の状況からダイヤが盗まれるといった状況は怪盗ものに近いです。
これが図版を付けて説明したくなるような、なかなか本格心をくすぐられるトリックで。と、同時に果たしてこれは成立するのかという問題にもブチ当たります。私的な好みとしては、本格ミステリのトリックは「実現不可能」なフィクション性の高いものほどそそられるのだけれど、本作はかなりギリギリなライン。
単純に仕組みとしてなら面白いです。ただしそこに人間の意識が入ってきた場合、このトリックを成立させるのは相当困難になります。少なくとも見張りの警官がひとりにつき2つの錯覚を起こさなければならないわけで、ある程度のリトライが許されているとはいえ、2×6=12の「見逃し」があって初めて成功する盗みに説得力があるかというと、微妙なところなんですよね。いくらなんでも、全員揃ってそこまでぼんくらじゃないだろ、と。
とはいえ、こういうミステリは嫌いじゃないです。残りの2作も是非とも邦訳してほしい。
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