2011.03/13 [Sun]
城平京『名探偵に薔薇を』
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★★★★★
――あんたは間違っていなければならない。
そうでなければ――私はこんな思いをするためだけに、生まれてきたのか
怪文書『メルヘン小人地獄』がマスコミ各社に届いた。その創作童話ではハンナ、ニコラス、フローラが順々に殺される。やがて、メルヘンをなぞったように血祭りにあげられた死体が発見され、現場には「ハンナはつるそう」の文字が……。不敵な犯人に立ち向かう、名探偵の推理は如何に?
知る人ぞ知る傑作と聞く、わが人生の課題図書が1冊。重版されて状態の良いものが出回っていたので即購入しました。
著者は『スパイラル~推理の絆~』『ヴァンパイア十字界』『絶園のテンペスト』の原作を担当する城平京。前者2作は単行本も揃えています。
本作は極めて連続性の高い中編2本がひとつの物語を編み上げる二部構成の変則長編。第一部では完全無比な毒薬・小人地獄にまつわる連続見立て殺人を描き、女子大生で名探偵の瀬川みゆきがその謎を解き明かす人物紹介&導入編。続く第二部はその数年後が舞台。第一部で犯人の標的となった藤田家で小人地獄による殺人が起こり、再び瀬川みゆきが招聘される。
『名探偵に薔薇を』は“名探偵であること”の意味に焦点を当てた小説です。名探偵が抱える苦悩、背負うべき業、逃れられない宿命……。真相を明るみに出すことで周りの者を傷つけ、人間関係を徹底的に破壊してしまう名探偵という存在。それ故に常に非難され、疎まれる。
米澤穂信「小市民」シリーズの小鳩君の過去なんかでもそんな一面がコミカルに見え隠れしますが、本作の主人公・瀬川みゆきの事件に遭う度に自分の心を限界以上に傷つけてゆく姿は「重い」という言葉を遥かに通り越して壮絶としか言い表せない。あまりにも救いのない物語に、読了後まず思いました。せめて。せめて、名探偵に薔薇を。
しかし、それすらもどこか美しいと感じさせてしまう罪。この作品、言い回しにやや大仰なところもありますが、ひとつの物語――小説としての完成度が非常に高いです。
第二部の動機を生かすには第一部は不可避であるし、藤田家の人間と三橋が善人であることを重々知っていることで、第二部の犯人告発の“最悪さ”を読者により意識させる構成にもなっている。
また、ドラマ部分がずば抜けて秀逸なのは言うまでもなく。「完全無比の毒薬をなぜ最も生かせないカタチで使用したのか」という一見して八方塞がり、手詰まり感のある謎でも魅せてくれました。
ちなみに私見ですけど瀬川みゆきの流れを最も受け継いでいる探偵は、天祢涼『キョウカンカク』の音宮美夜だと思います。
城平京の著作は全部で5点。うち4作が『スパイラル』のノベライズなので、オリジナル小説は本書のみとなります。全作読みましたが、もっと評価されて然るべき作家でしょう。いくらなんでも不遇すぎる。
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