2011.02/08 [Tue]
ピーター・トレメイン『死をもちて赦されん』
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★★★★☆
我が王国の将来と、我々が今後従うべき信仰も、この事件の解決にかかっているのだ
ウィトビアでの歴史的な教会会議を前に、アイオナ派の有力な修道院長が殺害された。調査にあたるのはアイオナ派の若き美貌の修道女“キルデアのフィデルマ”。対立するローマ派から選ばれたサクソン人の修道士とともに、事件を調べ始める。フィデルマの名を世に知らしめることになる大事件と、後に良き相棒となるエイダルフとの出会いを描く。
「修道女フィデルマ」第1作。
昨年の本ミスで名前を見つけて興味を惹かれたシリーズ。商業的な理由から既刊はランダムな刊行順だったらしいのですが、この度晴れて第1作が邦訳化。シリーズは順番読み派の私にとって、ちょうど良い機会なので買ってみました。
7世紀のブリテン島をめぐる政治的情勢とキリスト教カトリック各派の宗教的対立を背景にした殺人事件ということで、相当面白かった。第2作、早く出ないかなー
でも東京創元社のペースだと、今年短編あと1本出して長編は確実に……来年?
冒頭に引かれているアムミアヌス・マルケリヌスの“いかなる野生動物も、キリスト教徒が互いに向け合うほどの残酷さは、持ち合わせていない”の言葉どおり、大国ノーサンブリアがローマ派orアイオナ派どちらを支持するのかを決定するこの会議は、はじまる前から不穏な空気を漂わせます。酒の席での口論から上層階級者が派閥の異なる教徒を殺し、見せしめに木に吊るす行為が平気で行われ、またそれが“仕方のないこと”として受け入れられてしまう国。本作のノーサンブリアに限っていえば、派閥信仰上の対立でいとも簡単に人を殺してしまうような世界観にあります。
会議で弁舌を奮う予定だったアイオナ派の修道院長の死。それは自分たちの優位を確立するためのローマ派の仕業なのか?はたまた同情を狙ったアイオナ派支持者の犯行か?ヒートアップする修道士、修道女たちが衝突すれば国を揺るがす宗教戦争に発展する怖れすらある。そこに乗じて間違いなく起こるであろう、前々から画策されていたノーサンブリア王家のクーデター。
一件の殺人事件が、ひいては国を滅ぼしす火種ともなり兼ねないといった状況が緊迫感を持たせます。こういう話は現代劇ではなかなか難しい。当時の社会制度や文化があって、その上に物語が成り立っている様が良かったです。
謎解きの一部分は邦訳の都合によって扱いが難しそうなところがあったものの、なんとか上手いこと処理。その他の伏線も非常にスマートに張られており、申し分のない出来。真相も実に“らしかった”。
言うことを聞かない一房の赤毛がチャームポイントの、強情っ張りなフィデルマちゃんには始終はらはらさせられっ放しでしたが、最後が可愛すぎて許してしまう。この『グッドモーニング・コール』的な展開、元りぼんっ子には堪りません。
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